新制中学校校舎建設

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昭和二十四年度をもって、中学校一・二・三年の義務制が完成するのであるが、前記の如く貧弱な条件下では校庭は勿論のこと、職員室・教室・その他校具、教材の一切を小学校より借用して使用するほかはなかった。
 一方、教師の確保についても困難をきたし、小中学校の一時兼務、あるいは二部授業が行われたりしたのである。
 このような時に、いずれの町村においても速やかに独立校舎を建設して、独立校としての設備、内容を整えようとする動きが急速に高まり、町村長をはじめ、町村会議員・役場職員・地域住民・PTA・学校等が一体となって涙ぐましい努力が始まったのである。
 例を佐久山中学校の学校建設にとり、その経過について「新制中学校新築関係綴」(佐久山町役場 佐久山・第一七)を中心に考察してみると概要は次のようである。
 当時の町当局は、新教育制度の実施によって新制中学校の設置が急務となり、他の町村同様、学区内小学校の校舎の一部を借用した形で、急場しのぎの状態で開校したのが実状である。開校間もなく、町当局、町民一体となって独立校設置の気運がもり上がり、国の施策や県の指示に基づいて、その実現にとりかかったのである。
 先ず佐久山中学校新築委員会が組織され、校地の選定、建築資材の購入確保、校舎建設費用の問題、工事着工から完成までの一切にわたる大事業の計画、運営をになうこととなったのである。
 特に問題となったのは、校地の選定であるが、県からの通達に対する報告の中で、次のように回答している。
第3表 新制中学校敷地に関する報告書
新制中学校敷地に充当せんとする農地の所在佐久山町大字佐久山四四二七番地字新廟所
敷地に充当せんとする面積畑二町三反一畝
生徒収容能力三学年を通じ五〇〇名(予定)
既耕地を選定せんとする事由の詳細本町ノ地勢上当地以外ニ適地ヲ得ルコトハ絶対ニナイトノ委員会ノ決定ニ基ク尚他ニ一ケ所アリタルモ同様既耕地ニシテ是ハ本町ノ最東端ニ位シテ不便極リナシ。

これは、連合軍司令部の指令で「既耕地は絶対潰廃せざることの方針」に基づき、新制中学校の敷地は、原則として未耕地を選定する建前であるが、真に止むを得ず既耕地を選定する事情のある場合の報告である。
 候補地は何か所かあったと見られるが、最終的には前記報告書のとおり、現在地に決定されたのである。
 校地の整地作業は、町民の勤労奉仕によって行われ、各町内ごとに割り当てるなどして、各自の道具と手作業によって、何日もかかって作業を続け、まさに汗みどろの奉仕作業であったようである。
 工事面では、基礎工事をはじめ、木材の確保、建築資材の購入、屋根瓦の製造に至るまで、すべて町直営で行い、建設作業に従事した人達はほとんど佐久山町民であり、また校舎建設の経費の多くは、町民の尊い寄付金によってまかなわれたのである。
 戦後間もない経済混乱期のさなかにあったので、日常生活の必需品は極度に不足をきたして入手できず、預金は封鎖されて自由に使えず、インフレ傾向は次第に悪性化をたどり、物価上昇の中で生活はますます苦しくなるという状況下にあって、建設用資材を調達することは、割当制となって非常に困難であった。
 このようにして、新制佐久山中学校は、全町民一体となっての涙ぐましい努力と協力一致によって誕生したのである。
 この時期にあっては、いずれの中学校においても、地域住民によるいわば「手づくりの学校」であったということができよう。
 以下「新制中学校新築関係綴」(佐久山町役場)等に収められている資料の一部を紹介し参考に供したい。

第2図 新築工事設計図(当初の案)

 昭和二十三年五月二十日
佐久山中学校設立準備委員会(第一回)
(一)、敷地候補地ノ選定ヲ協議ス。
 一、新廟所赤坂以西ノ案。
 二、赤坂以東梨ノ木窪ヲ基準トスル案。
 三、高橋隣保館以東ノ案。
 四、長宗寺山日向藤沢裏ノ案。
 五、熊ケ谷井戸附近ノ案。
 六、御料地大神南部前ノ案。
 七、土槁(瓦屋)附近ノ案。
 八、(葉ノ木沢ノ案……後日追加)
 〃六月二十日再協議会ヲ開催ス(役場)
敷地再調査後ノ状況ヲ大島融太郎委員ヨリ発表……候補地中特ニ新廟所(熊ケ谷井戸)候補地ハ平坦地トシテ広ク買収ニモヨク敷地トシテ道路ノ便モヨク最適地トシテ報告、町長ヨリ以上大島委員ノ報告アリマシタガ如何ニ決定ヲ諮リ、熊ケ谷井戸敷地ト全員異議ナク決定ス。
 〃九月三日中学校新築協議会(小学校ニ於テ)
臨時建築等制限規則による許可(及資材割当)申請書
申請者の住民氏名又は名称
                               那須郡佐久山町長 森大暁
建築物等設置の場所
 那須郡佐久山町大字佐久山字新廟所
建築物等の主要用途及び利用目的
 佐久山中学校校舎
本申請を必要とする理由
 六・三制による佐久山中学校新築のため

建築物の内容
棟数建築面積延面積工費予算額
一四八五m2一四八五m2一八三一、〇〇〇円
階数基礎外壁屋根
平家玉石切石木柱板張板張瓦葺

建築工事に必要な資材
木材九〇〇石二一枚
建具八二〇枚セメント二二五〇kg
一〇枚電線五kg
八四〇kg亜鉛鉄板一〇〇kg

 右の通り臨時建築等制限規則による許可(及資材割当)を申請します。本申請書に記載の事項は事実に相違ありません。

  昭和二十二年十月九日
                               那須郡佐久山町長 森大暁 印
  戦災復興院総裁 殿
本申請者は、臨時建築等制限規則により建築物築造及び第八項査定欄に記載の資材の取得を許可されたことを証明し、この申請書を許可証とする。

   昭和二十二年十二月十二日 第七七七号
                           戦災復興院栃木建築出張所長総理庁技官
                                        浜田秀雄 印
   昭和二十二年十月二十八日
(佐久山・第一七)

                          佐久山町新制中学校新築委員長 石崎正明
 日本銀行宇都宮出張所 御中
 封鎖預金等支払許可申請書送付の件、標記の件、許可申請書別紙の通り同封御送付申上げます然可御願致します。
 封鎖預金等支払許可申請書

                             経由金融機関店舗名 佐久山郵便局
 大蔵大臣 栗栖赳夫 殿
  申請者の住所
   栃木県那須郡佐久山町大字佐久山
    職業 助役
                            新制中学校新築委員長 石崎正明 印
標額ノ件ニ関シ左ノ通リ申請致シマス
一、封鎖預金等支払ヲ受ケル金融機関店舗名
                                   佐久山町農業会
                                   佐久山郵便局
                                   足利銀行大田原支店
二、封鎖預金等ノ種類及残高別紙ノ通リ
三、支払ノ方法金額及時期
  封鎖支払 五三二、二〇〇円 許可アリ次第
四、支払ヲ必要トスル事由
  新築用資材購入ノタメ新円不足ニ付必要ナリ
五、其他参考トナル事項
新制中学校新築第一期工費総額金百八拾九万円ニ対シ寄附金トシテ百五拾九万六千円也ヲ必要トスル計画ナルヲ以テ是ガ申請致ス次第デアリマス

設立に関する事業概要
六、三制実施に伴ひ文部省の指令により新制中学校を新築致すことに決定し設立委員会の設置をなし、尚部落に新築委員を設け工事の運営に万全を期し事業に着手したり
新築総建坪  坪其の内第一期工事として  坪の工事に着手することとし新築許可を申請した次第です。
工費総額一、八九三、六八七円にして内助成金二九七、〇八三円 寄付総額一、五九六、六〇四円にして内封鎖預金による寄付募集総額を五三二、二〇〇円致したいと思います。
封鎖による寄付者名簿は別紙の通りです。

(佐久山・第一七)

寄付者氏名寄付金額内封鎖預金預先金融機関預金種類
A四五、〇〇〇円一五、〇〇〇円佐久山農業会当座預金
B二五、〇〇〇八、〇〇〇佐久山郵便局普通預金
C三、六五〇一、二〇八足利銀行大田原支店当座預金
D一五、一〇〇五、〇三一福原郵便局定期預金
E八、〇〇〇二、六二〇安田銀行支店当座預金
F一、〇〇〇二五〇三菱銀行支店定期預金
G一四、〇〇〇四、五五七三井信託会社信託預金
H三〇、〇〇〇三〇、〇〇〇大田原郵便局定期預金
     中略
一、五二七、〇二〇円五三二、二〇〇円二四一名

佐久山町外三ケ村公営製瓦工場規約
一、本事業ヲ佐久山外三ケ村共同公営製瓦工場ト称シ事務所ヲ佐久山町役場ニ置ク
二、本工場ハ佐久山町、上江川村、親園村、野崎村ノ共同公営事業トシ各町村営建築物ノ屋根瓦ヲ製造スルヲ主タル目的トスル、従ッテ其ノ目的ヲ完了シタ時ヲ以テ解散シ爾後ノ経営ハ役員会ノ決ルトコロニ依ル

三、本工場ニ左ノ役員ヲ置ク(中略)
四、役員ノ任期ハ工場解散迄トシ各町村議会ヨリ選出シ……(中略)
五、六、七(中略)
八、出資金ハ八十万円トシ四ケ町村ノ均等出資トスル
九、本事業ノ損益ニ対シテ四ケ町村ハ均等ナル権利ト責任ヲ有スル
十~十二(中略)付則、本規約ハ昭和二十二年十一月十九日ヨリ実施スル

(佐久山・第一〇)

 
 新制中学校新築工事請負契約書
一、金 参拾六万四千弐百八拾五円也
一、教室 七室及昇降口
一、職員室、玄関、校長室、救護室、物置、手洗便所、湯沸所、勝手、小便室、宿直室、生徒便所、渡り廊下一切

 総坪数参百拾六坪二合五勺
一、下小屋、五拾坪、屋根、七拾五坪
一、事務室、拾五坪、屋根共
以上、立方足場共 但し建具、畳を除く。
着工昭和二十三年二月二十一日
右、建築工事一切を前記金額を以て昭和二十三年六月三十日迄に竣工致します。
尚竣工期日後の賃金の値上り等に於ても異議申しません。材料は監督員と協議の上不良材を除く、会計は月十五日、三十日に支払うものなり。
但し、下小屋事務室工事は至急着工の事
右各項に違反したる場合は一切の責任を請負人に於て引受契約者に損害を御掛け致しません。以上の通り契約をなし為後日本書弐通を作成し各自一通持参するものなり。

 昭和二十三年二月十三日              契約人新制中学校新築委員長 石崎正明印
                          請負人代表         山口幸作印
                                         外十六名
(佐久山・第一七)

 昭和二十四年二月二十二日
                                    佐久山町長 森大暁印
各部落駐在所長 殿
 新制中学校引移について
新制中学校新築につきましては、皆様の絶大なる御協力によりまして愈々今般左記により新校舎に引移る事になりましたから此の旨、御部内一般に御周知下さい……(中略)引移祝として生徒に餅を出す事になり各部落より糯白米二升以上御寄付を願い致すことになりました。誠に御迷惑の次第ですが御部内委員の方と御協力の上来る二月二十四日までに役場まで御届け下さる様御願い致します。

(佐久山・第一七)

佐久山町立新制中学校経理報告(昭和二五・六・二〇現在)
収入支出
種目金額種目金額
円  円  
一、借入金二五〇、〇〇〇 〇〇一、基礎工事費一一六、五八六 〇〇
二、補助金二〇三、〇〇〇 〇〇二、石材工事〃一六四、九三七 〇〇
三、土地立木売却金一九一五、〇〇六 五七三、木材〃六五〇、〇九四 二〇
四、寄附金一二六六、六五四 七一四、大工工事〃六一三、〇七五 二五
五、セメント売却代一〇五、二四二 〇〇五、ボルト及釘〃一六九、六〇一 二六
六、残材処分代金四九、四四五 〇〇六、屋根工事〃一八二、九一二 五〇
七、篤志寄附二、二〇〇 〇〇七、左官工事〃七四、四五九 五〇
八、雑収入一、六〇〇 〇〇八、武力工事〃四二、九四二 〇〇
九、畳工事〃二八、八二三 五〇
十、建具工事〃四一五、六〇四 一〇
一一、雑工事〃九〇五、三〇五 四〇
一二、雑費三四一、一七二 八一
一三、委員手当八六、〇〇〇 〇〇
収入合計三、七九三、四〇二 二八支出合計三七九二、二六三 五二
    差引残高 一、一三八円七六銭

 昭和二十四年四月十二日
                                那須郡佐久山町長 森大暁印
栃木県教育委員会教育長 殿
 六・三制義務教育実施状況調査について
一、義務教育校舎の状況
 1特別教室の状況、設備なし予定あるも経費の都合にて実施得ず。
 2普通教室の状況、小学校教室の一部を狭小ながらも使用致しておりました。
二、当町に於ては小学校を長期間に亙り使用不可能に付き新制中学校新築の運びに至り、校舎延坪数三百九十七坪、便所二十二坪、小使室湯沸所宿直室、救護室三十三坪二合五勺を新築し、引続き講堂の建築に着手している次第です。新築経費予算は、寄付金一、五四二、〇〇〇円、所有財産処分代金一、八五八、〇〇〇円、補助金一九六、七五五円、合計三、五九六、七五五円、但し寄付既納は一、一〇〇、〇〇〇円に満たず予算も逐次諸物価賃金等の値上りに依り上昇しつつあり、本年度相当の補助を仰がなければ収拾つかない状況にあります。

  昭和二十六年一月十一日
   佐久山町長 森大暁印
   新築委員長 石崎正明印
   新築委員 殿
 中学校新築寄付整理方御願いについて標記の件に関し本日特別委員会において寄付金整理につき御協議をお願い致しました結果、寄付残りの方にお願いの書面を差上げておきましたから本月末日までに各委員の皆様には誠に御迷惑とは存じますが貴部落内の徹底的整理をお願い申し上げます。尚援助を必要とする向きは役場まで日割等につき御連絡方願います。

(佐久山・第一七)

  昭和二十六年一月十一日
                                    佐久山町長 森大暁
                                    新築委員長 石崎正明
                                    新築委員  一同
  〇〇〇〇 殿
   中学校新築御寄付残り分お願いについて
……(前略)校舎新築費も未だ借入金を以て支払致して居る次第にて、是が整理に迫られ誠に困り居り就而是非共皆様の寄付金をお願い致す以外に無く御無理の事とは重々承知致しておりますが、何卒事情御了察の上甚だ勝手乍ら御寄付の残り分を来る一月二十日までに御願い申し上げます。

  御寄付の残〇円〇銭
   残額については相違致して居るかも知れませんから予め御了承を願います。
(佐久山・第一七)

 なお、親園中学校は第4表のとおり、最初親園小学校校庭に二階建木造校舎を設け、やがて現在地へ独立校舎を新築したのであるが、村民一同による並々ならぬ努力のあとをうかがうことができる。
第4表 親園中学校建設事業工事経過
(昭33.3.31)
年度工事名工事内容工事金(円)期間
着手竣功
昭和31年度(第一期)整地・整地工事20,000m2土砂移動31.11.531.11.9
(工事設計額800,000)
主体工事校舎1棟244.125坪6,290,00031.12.232.4.25
渡廊下・更衣室5 875
屋根工事S型スレート葺350,00032.2.132.3.10
312.00坪
給水工事結水排水工事一式200,00032.3.132.3.30
電気工事電気内線(強弱)工事一式96,00032.3.632.3.25
黒板工事黒板納入21枚119,70032.2.532.4.10
小計7,055,700
昭和32年度(第二期)主体工事校舎1棟246.75坪6,000,00032.10.133.2.26
屋根工事S型スレート葺3350,00032.10.132.1.10
312.00坪
黒板工事黒板納入18枚130,00032.10.133.11.20
小計6,480,000
合計国庫補助対象工事13,535,700
第三期工事付帯工事玄関ポーチ4.0坪便所570,00033.2.15
1棟11.0坪
電気工事内綿(強弱)工事一式153,00033.2.1533.3.25
給水工事屋内給水施設一式15,00033.2.1433.3.25
小計738,000
総計14,273,700
(「親園中創立30年誌」)


親園中学校(昭和30年代)