代表的なものとして那須神社(南金丸)には三六歌仙や多くの絵馬などが奉納され、江戸時代末の絵師小泉斐(あやる)の描いた絵馬や本殿壁板の竜、虎の絵はみごとである。また近隣の湯泉神社(羽田)にも絵馬が奉納され、境内の石碑には人像が描かれている。共に小泉斐、天保年間の作である。
小泉斐 明和三年~嘉永三年(一七六六~一八五〇)益子生れ、江戸で活躍し黒羽藩の神職兼画家となる。山水のほか歴史・伝説に取材したものが多い。芳賀や那須地方(大田原・黒羽・那須)の神社に絵馬を多く残している。
また、佐久山招魂社(招霊山)のふもとにある薬師堂には、作者不詳であるが、堂内の壁面には数箇の絵馬が掲げられ、天井中央には竜の絵が描かれている。壁板の正面には歌仙と題した歌額(「元禄七、甲戊歳九月祥日、願主資直敬白」とある)が奉納されている。
親園の滝沢神社には精功な竜などの彫刻が外側に施されており、文政六年(一八二三)癸末正月に奉額された「那須与一扇の的」の鮮やかな絵馬、堂内の壁面にも歌額が掲げられている。これらはいずれも地方の町人や村人達が地域の生活とのかかわりから祈願したもので、中央の文化を積極的に受け入れようとした、当時の人達の文化的水準の高さをうかがうことができよう。
このように見てくると本市内の社寺・堂宇などには、庶民の願いをこめた絵馬や歌額の類がたくさん残されていることがわかる。
その時代の人々の文化や生活の様子を知る上で、貴重な文化遺産といえるので、大切に保存して次代へ伝承されねばならないであろう。