序にかえて

 大田原市は那須野ヶ原扇状地の端部に近い一画を占め,東に那珂川,中央部に蛇尾川,西に箒川を有する土地であります。
 このような地理的環境にある大田原市は,これらの河川とともに,古来からその歴史的環境をはぐくみ多くの遺産を今日に伝えております。
 湯坂遺跡は,大田原市北東に所在する縄文中期遺跡の中でも古くから私達の間で知られていた遺跡の一つであります。
 湯坂遺跡発掘については,昭和32年,38年度に第1次・第2次発掘を実施し,その結果石器・土器等おびただしい資料が出土しました。破片は,報告書作成の方々によって着々復元中で完成が楽しまれます。
 遺跡からの出土品は価値においても驚異的なものがあり縄文中頃から同後半に移行する過渡期の形態を示し,考古学的な価値の外,市民の埋蔵文化財に対する関心の深化,郷土再発見の意義は高く評価されるでありましょう。
 この報告書が,各方面におかれまして,学術的にご利用いただければ幸と存じます。
 ご熱意をもって調査にあたられた渡辺龍瑞先生,辰巳四郎先生。終始発掘調査,復元,報告書作成に当られた海老原郁雄先生,川原由典先生他の皆さん。さらに当時の宇大歴研学生有志,国大生有志,地元青年団員並に地元の方々に,深く謝意を表します。
 
  昭和54年3月         大田原市教育委員会  教育長  増渕五郎