石器の材質と産地

41 ~ 41
 前述の石器の材質は,凡字形石器が硬砂岩と砂岩,磨製石斧が砂岩と泥岩(頁岩),硬玉製有孔石器が玉髄,小型棒状石器が斑糲岩で,各々河床礫を利用したものと考えられる。湯坂遺跡が所在する那須野が原扇状地では砂礫層はあるが火成岩のあまり材質のよいものではないため,石器の材料は那珂川で採取したと見る方が自然である。このあたりでは扇状地の東縁を八溝山脈に限られているが,その接線部分を北から南へ那珂川が流れている。松葉川・野上川や小口川,久那川,馬頭町地内の武茂川などが八溝山地から流れ出て那珂川に合流しているので,那珂川の河床には八溝産の岩石が運ばれている。硬砂岩(中生代)は八溝山地のベースで,所どころに後に貫入した花崗岩または斑糲岩の露頭がある。玉髄はこの花崗岩の中に石英脈が貫入したもの。黒羽町から馬頭町附近にかけての那珂川流域には凝灰質の砂岩や泥岩の堆積岩(第三紀)が見られる。斑糲岩が見られるのはこのあたでは唯一カ所,馬頭町の重郎内附近で武茂川の上流域にあたる。つまり石器の材料になっている石はすべて那珂川の河原で得られるということである。湯坂遺跡からほど近い黒羽町の那珂川・松葉川の合流点から,馬頭町の那珂川・武茂川の合流点あたりにかけての河床が最も採取条件に叶っている地域と言えようか。特に後者の地域は諸々の材質の河床礫が得られる可能性が強いところだと考えられる。石材の鑑定並びに本項の地質学的な所見については提橋昇氏(栃木県立博物館準備班長)の御教示を得た。銘記して謝意を表する次第である。