土器(1~148)

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1.小波状の口縁が外反し胴部がふくらむ小型壺形土器。口縁部破片。波頂部に刻み目があり,口頚部に縄文原体の圧痕文3条を廻らす。くびれ部に隆線を廻らせ,これに曲線文を連結させて胴部文様帯を構成する。隆線の背に縄文を施すが器面には施していない。火熱により器面の内外に黒斑がある。粗砂と若干の雲母を含み焼成良好。
2.口縁部破片。太い隆線で口縁部文様帯を区画。口縁部が外反する。隆線にキャタビラ文を伴わず,半截竹管の一端で引いた細い単沈線を施す。区画部に同じ工具で斜行する平行沈線を引く。器面は栗色,胎土に細粒と多量の雲母を含み焼成良好。
3.胴部破片。楕円状の横帯文を併列させそれを上下何段か配列したもの。区画部に2本セットの結節沈線で楕円文を描き内部にも横走沈線を引く。結節は角押しとヘラ先きの二種あり,2本の工具を一諸に持って同時施文したもので,途中で持ち変えた際に位置が入れ換ったため結節型が内外交換になっている。隆線は断面三角で押しつぶした状態になっている。破片の上下線は粘土の継ぎ目が剥離したもの。細砂と多量の雲母を含み焼成堅緻。内壁は平滑に調整している。
4.口縁部破片。頚部に隆線を廻らせ口頚部文様帯を区画。内部に楕円状の横帯文を併列する。その内部には区画線に沿って半截竹管により連続刺突文を施す。口唇の稜に刻み目文をつける。隆線の断面は三角。器面は赤褐色で火熱をうけ,砂粒と雲母を含みもろい。
5.口頚部破片。断面三角の隆線を貼って楕円状横帯文を区画。隆線に沿って半截竹管による押引き文を施す。茶褐色で焼成良好。
6.胴部破片。X字状に隆線をはり,これに連結させて刻み目を施し文様帯を構成する。灰褐色で地文なし,裏面のみ調整,少量の雲母を含み焼成良好。
7.口縁部破片。4対応する破状口縁を呈し,1対は単なる山形,1対は頂部が2こぶになるもの。口縁に沿って隆線を貼り,山形波状部は渦巻状に,2こぶ波状部は山形に変化させながら全周する。地文に櫛引き文を施すが,波頂部や隆線の背につけたり,全白部を充填しなかったりでかなりアトランダムな施文。器面は黒褐色ないし褐色で火熱をうけ荒れている。多量の長石類を含みもろい。かなり粗雑なつくりの土器である。
8.キャリパー状深鉢の口縁部破片。波状口縁に接続する縁部部分で,口唇外側に粘土を貼って肥厚させそれに文様区画の隆線がとりつく。区画部に施文方向不定の縄文を施文,隆線に全くキャタビラ文を伴わず,器面の全面に縄文を施したもの。器面は暗褐色で細砂と多量の雲母を含み焼成良好。
9.キャリパー状深鉢の波状口縁破片。太い断面三角の隆線を貼って区画線をつくる。隆線つけ根にヘラ描きの沈線を引き,内部に縄文を施し地文とし鋸歯文を描いたらしい。裏面は平滑に調整している。胎土に粗砂と雲母を含み焼成堅緻だが火熱で器面は粗く黒斑がある。
10.口縁部破片。浅鉢形か。口唇部を肥厚させ平担にする。口縁に沿って段差部分があり,以下の器面に縄文を施す。口縁と器面に施した縄文は条の傾斜が逆である。灰褐色で焼成堅緻。
11.口縁部破片。二種のヘラ状工具で刻み目文,結節沈線を組み合せて文様帯を区画。内部へ鋸歯文を描く。器面は赤褐色,裏面は灰褐色。胎土に粗砂と雲母を含みもろい。
12.口頚部は張る深鉢形土器の口縁部破片。口頚上半分に文様を集約。屈曲する隆線を貼って文様帯を区画し,内側を半截竹管による押引き文で充填する。隆線の屈曲部を肥厚させて円環状の突帯をつくり出す。口唇の背に刻み目を施す。器面は栗色で,火熱をうけ炭化物が附着している。若干の砂粒を含み焼成堅緻,内壁は平滑に調整している。
13.大型土器の胴部破片。地文に粗い縄文を施し,器面に平行隆線を貼って胴部文様帯を区画する。隆線間にキャタビラ文,両側にヘラ押し文を施す。後者のヘラで,区画部に直線と鋸歯文を組合せて文様を描く。隆線は下方の惰円状横帯文を連結する。惰円文内は鋸歯文を引く。その下位にも楕円状文がある。器色は黒褐色で砂粒と雲母を含み焼成良好。同破片はT1-Ⅴ土壙出土の一片と接合できた。
14.口縁が外反して頚部がくびれ肩が張る甕形土器の肩部破片。地文に縄文を施し渦巻文をモチーフとする隆線を施しその両側に結節沈線を引く。くびれ部直下にX字状の隆線施文は阿玉台式の名残り。結節沈線は後退しながら引いたもので拓影にはそれが出ていないが,X字状部分の下位で左側と右側の別方向に引いた沈線の連結部が観察される。破片の下縁は粘土の継ぎ目が剥離したもの。細砂と雲母を含み淡黄褐色で焼成堅緻。
15.内弯する胴部破片。カーブの変曲点に横走する隆線を廻らせ上下の文様帯を区画。隆線の片側に結節沈線を施す。地文に縄文を施す。下位の文様は断面三角で曲線を描く。淡褐色で胎土に細砂と多量の雲母を含み焼成堅緻。内面は平滑に調整している。
16.口頚部が外反し胴部以下が円筒形の深鉢で,その胴部破片。地文に縄文を施し,くびれ部に2本セットの結節沈線を引いて上下文様帯を区画する。胴部に曲線文で一種の区画文を施したもので,副次的な文様のワラビ手文が見える。器壁の内外に黒斑がある。細砂と雲母を含み焼成きわめて堅緻。
17.胴がふくらむ深鉢形土器の胴部破片。地文に粗い縄文をつけ,細い粘土組を貼って胴部文様とする。隆線は渦巻文をモチーフとし,横に連鎖しているらしい。隆線の両側に結節沈線を伴う。細砂を含み焼成堅緻。火熱をうけ器面は黒色,内壁も灰黒色を呈する。
18.キャリパー状深鉢の口縁部破片。口縁部に粘土組を廻らせて以下の器面と区分する。渦巻文をモチーフとする突帯をつけ,背は長楕円状のくぼみとする。器面には縄文を施す。砂粒を含み焼成堅緻,部分に黒斑がある。
19.口頚部が若干の内弯する小型キャリパー状深鉢形土器の口縁部破片。口唇内側に貼紐し稜とする。口縁下に隆線を廻らせて口頚部文様帯を区画し,S字文を貼付したもの(図では右側が剥落)。4対応か。胴部全面に地文の縄文を施すが,原体は2種類である。微量の雲母を含み,赤褐色で焼成堅緻。かなり火熱をうけている。
20.口縁部が外反し胴部が円筒状の器形。胴部破片。地文に縄文を施す。縄文は縦の無文帯が併列する。断面三角の隆線を施す。火熱で黒色を呈し,砂粒と雲母を含み焼成良好。
21.口縁部破片。口縁部に無文帯をつくり,以下の器面に太い縄文を施す。境目に稜をつくる。淡褐色で細砂と若干の雲母を含む。
22.胴部破片。沈線で曲線文を描き磨消縄文により文様帯を構成している。称名寺式が堀之内式か不祥。粗砂を含み焼成良好。
23.口縁部破片。口縁が若干外反し,内壁に稜が廻る。口唇から口頚部へ粘土紐を貼って舌状の区画帯をつくる。内部は無文で,器面に縄文を施す。薄手で微量の雲母を含み焼成良好。火熱をうけて器面は粗い。
24.上半部が直線的にひらく深鉢形土器の胴部破片。器面内外を平滑にヘラ仕上げした後,ヘラ描き沈線で三角状区画文を描き,外輪部に細い縄文を施して磨消縄文の効果を上げる。黒褐色で,火熱をうけ裏面に炭化物が附着する。ほとんど砂粒を含まず焼成堅緻。
25.口縁部破片。口縁に沿って太い沈線を引き列点を施す。その下に浅い沈線を引いて無文帯を平滑にヘラなでしている。肩部に列点を施し,器面に綾杉の縄文をつける。口縁内側に段差がある。火熱をうけ黒斑がある。裏面は黒色で平滑,細砂を含み焼成良好。
26.口頚部が外反する小型キャリパー状深鉢形土器。口縁と頚部に隆線を貼って口頚部文様帯を区画する。隆線の背に刻み目をつける。この文様帯にS字文を貼付し,4対応させる。S字状文の一端を口唇部に突出させ,円形のくぼみ目を施す。器面全面に地文の縄文を施す。黒褐色で,長石類を含む粗砂を混え焼成堅緻。内壁は平滑に調整している。器面に火熱をうけている。
27.口縁部破片。口頚部が外反する深鉢形土器。口縁部にS字文をモチーフとした把手をつけ,一方が貫孔している。把手の稜に鋸歯状に粘土紐を貼って鶏冠状の外見を呈する。この把手から頚部に橋状に粘土紐をわたらせ,その背に円形のくぼみをつける。把手のS字状を目,橋状部の円形くぼみを鼻,そのとりつき部分の楕円状区画部を口に,それぞれ見たてると,この把手は全体的に顔をデフォルメしているようにもみえる。把手の裏面もS字文をつくり出している。頚部以下に地文の縄文をつけ,細い隆線を貼って文様帯を区画し,2本セットの結節沈線で区画文を描く。黒褐色で細砂を含み焼成堅緻。
28.浅鉢形土器の口縁部破片。口唇を平担にして肥厚させ,把手をつける。把手は横から貫孔している。把手の背から隆線を貼って,頚部の弯曲部へ渡し,器面との間に横位の貫孔を設ける。器面は平滑に調整し,黒褐色で砂粒を含み焼成良好。内壁は黒色平滑。
29.胴部破片。胴部文様帯の区画部で,地文に縄文を施しヘラ描沈線で鋸歯文を引く。粘土のつぎ目が剥離。胎土に粗砂と雲母を含み焼成堅緻。黄褐色で裏面を平滑に調整。
30.小型碗形土器。口縁部が外反し,内面は稜をもって屈曲する。口頚部に対の2個の把手をつける。この2個だけで対応するものはない。無文で外壁を平滑に調整している。器面に炭化物が附着,赤褐色を呈し,口縁部から内壁の器面は摩耗して粗い。
31.小型キャリパー状深鉢形土器。口縁内側に稜があり段差をなす。無文。胴部に縦方向の整形痕がある。黄褐色で,砂粒と雲母を含み焼成良好。
32.大型浅鉢の破片。下辺は底部に近い部分。口縁部は山状に突出して4対応させ直上からみると方形を呈する浅鉢であったと推定する。この山形部の内壁は隅丸三角状に段差をつける。内側に明瞭な稜を設けて土器内部を区分する。器面は内外とも平滑・入念に調整しており内壁に炭化物がこびりついている。粗砂を含み焼成堅緻で,黒斑がみられる。
33.口頚部がゆるく外反する深鉢形土器。口唇部を肥厚させて平担化し,その面に鋸歯状の浮文を貼る。口縁部に台形状の凸帯をとりつけ,これが4対応したらしい。凸帯は表部を三日月状にくぼませ,台形上端から太い隆線をとりつけて基部へ橋状にわたす。裏面は上半に細い粘土紐を貼ってS字状の区画部をつくり,下半に鋸歯状の浮文を貼る。器面全面に地文の縄文をつけ,3~4本セットのヘラがき沈線で,方形と渦巻文を組合せた文様を連鎖させて描く。文様は口頚部と胴部とを区別せず連続しているが,口縁部の凸帯を基準として4単位にわりつけしたものと考えられる。沈線の一部に〝昔のクセ〟が出て結節化したところがある。茶褐色で,火熱をうけている。かなり厚手である。砂粒と多量の雲母を含み焼成堅緻。つくりのよい土器である。
34.大型甕形土器。口唇が外反し外側に貼り紐し背に刻み目をつける。その下の頚部にも隆線を廻らせて口縁部に無文帯をつくり出す。口縁部にS字文の突帯をつける。S字文は外側はメガネ状の穿孔部に見える。その背に棒状の粘土紐をとりつけ,無文帯をアーチ状にして渡す。S字状の突帯は4対応していたらしい。以下の器面に地文の縄文をつけ屈曲する単隆線を施して胴部文様とする。胴部文様はS字状突帯アーチ部を基点に底部に至る垂下する隆線で4単位に縦割りされる。この隆線は中位で途切れ,渦巻文に連結される。肩部の余白部には,口縁部無文帯に併走する鋸歯文を伴う2本セットの沈線文にとりつけた,2対のワラビ手状の沈線文を描く。隆線は両側に沈線文を伴う。沈線文は部分的に結節になる。器面は赤褐色で火熱で摩耗が著しく,部分に黒斑がある。内壁は平滑に調整している。若干の砂粒を含み焼成良好。大型土器のわりに器壁は薄手である。
35.口縁部破片。口唇がやや外傾。口頚部に隆線で楕円状(?)の区画文をつけ,区画線に沿って粗雑な結節沈線を引く。つくりが粗末である。火熱で灰褐色を呈する。
36.口縁部破片。口唇部に突出部をとりつけ4対応するらしい。突出部に連結させて口頚部文様を区画するが,隣接する区画帯は対称でなく,左側は内部を斜行する結節沈線を併列させて充填するのに対し,右側は隆線区画がなく,充填文様も異種のものらしい。黒褐色で細砂と多量の雲母を含み焼成堅緻。
37.口縁部破片。波状の口縁の裾部にあたる。頚部に横位の隆線を廻らせ,主体文様の口縁部区画帯と頚部の文様帯を区分する。隆線の片側にキャタビラ文を伴う。波状部の三角状区画帯も同じキャタビラ文を施す。器面は平滑に調整し,黒褐色を呈し焼成堅緻である。
38.口頚部が外反する深鉢形土器。口唇に貼り紐して外反させ,これにとりつけて隆線を貼り楕円伏の横帯文をつくる。隆線の断面は三角で,屈曲部では片側から押しつぶされる。隆線つけ根にキャタビラ文を伴う。器面は赤褐色で,火熱により黒斑と炭化物が附着。細砂を含み焼成良好。
39.口頚がやや内弯ぎみに開く深鉢形土器の口縁部破片。4対応する波状口縁で,波頂部を肥厚させ,片側(左)の背に円形のくぼみをつける。口唇直下から器面全体に縄文を施すが施文方向が不定で条の傾きが様々である。黒褐色で火熱をうけ砂粒と雲母を含み焼成は不良。
40.口頚部が外反する深鉢形土器。4対応する波状口縁を呈し,頚部とくびれ部とに隆線を廻らせて口頚部文様帯を上下2段に区画した。上部文様帯は,波状部の裾にあたる部位に縦位の貼り紐して,波頂部を頂点とする三角状区画文を描く。下部文様帯はくびれ部隆線にとりつけて錨を立てたようなモチーフの文様を呈する。地文に縄文をつけ,沈線は結節で,口唇の背,上部文様帯を区画する縦位の貼り紐の背などにも施文している。多量の長石類と雲母を含み,器面は赤褐色。内面は黒色で平滑に調整されている。
41.大型キャリパー状深鉢形土器の口縁部破片。山形の波状口縁が4対応するらしい。口縁部の平滑な無文帯にとりつけて頂部に対応して隆線で渦巻文を貼り,その裾部から下位の三角状区画帯をつくる隆線を延長する。隆線のつけ根に半截竹管を押引きする。波頂部の斜辺部分には三角状の区画文を描く。渦巻文の下位に同じ工具でコンパス文のような沈線文を垂下させる。区画部には地文に縄文を施す。灰褐色で焼成良好。粗砂と雲母を含み,丁寧なつくりである。隆線の背にも縄文を施す。内壁は平滑に調整している。
42.中型キャリパー状深鉢形土器。口頚部はあまり内弯しない。口縁に貼り紐して肥厚させ一条の文様帯とし,縄文原体(無節)を押捺して縦の刻み目を充填する。器面に単節の縄文を施す。砂粒と若干の雲母を含み焼成良好。火熱をうけ,底部近くは赤褐色,他は黒色。
43.胴部破片。隆線区画内部の充填文様。地文に縄文をつけ,2本セットの結節沈線で区画文を施す。赤褐色で焼成良好。粗砂と若干の雲母を含む。
44.口縁部破片。口頚部が内弯する。口縁に沿って隆線を廻らせ,その下に鋸歯文と直線を交互に配した沈線文を引く。地文に縄文を施し,渦状文を沈線で引く。補助的な充填文様であろう。細砂と雲母を含み焼成堅緻。
45.口縁部破片。口縁部に一条の平滑な無文帯をつくり,列点文を伴う沈線文で区画。以下には縄文と無文部の文様が見える。
46.小型浅鉢破片。無文で内外壁とも平滑に調整している。口唇を屈曲させ内壁に段差をつける。この段差部分から口唇部まで全面に朱を塗っている。細砂を含み赤褐色,焼成堅緻。火熱をうけていない。外壁にひびわれが生じている。
47.深鉢形土器の胴部破片。背に縄文の圧痕を伴う隆線を垂下させて器面を4単位の文様帯に割りつける。器面に粗雑な縄文を施し,上部には垂下する蛇行沈線を併列し,下部には2本セットの結節沈線で屈曲する文様を描く。隆線は沈線を伴わない。粘土がかなり乾いてから施文したため,縄文も沈線も浅い。器面は黒色を呈し火熱をうけている。細砂と若干の雲母を含み焼成堅緻である。
48.キャリパー状深鉢形土器。口頚部がゆるく内弯し,胴部でくびれ,胴下半分がふくらむ。口縁部に円環状貫孔部を主体とする把手をつける。地文に縄文を施し,くびれ部に鋸歯文を組合せた4本の沈線を廻らせて上下文様帯を区分する。口頚部は把手に対応して2本セットの沈線を垂下させて器面を縦割りする。4単位と思われる。その内部に鋸歯文を組合せた3本セットの沈線で渦巻文をモチーフとする曲線文を描く。胴部文様も同様の3本セット沈線で施文している。沈線は半截竹管の背の部分を押引きしたもので,部分的に昔のクセが出て結節になっている。器面は黒褐色で,火熱のための部分に黒斑がある。内面は平滑に調整している。細砂を含み焼成良好。
49.口頚部がやや内弯ぎみで上半部が外反する深鉢形土器の口縁部破片。4対応する波状口縁で,波頂部は方形突出部が対置されるその中間部から隆線を垂下させて器面を4単位に縦割りする。口頚部に隆線を廻らせて区画帯とし,その内部に楕円状横帯文を2個併置し,それぞれ斜行する結節沈線を併列して充填する隆線は断面三角で,横帯文の隣接部や口唇部の稜には刻み目がある。胴部には横位の刻み目があり,これによる胴部文様帯があったらしい。黒褐色で焼成堅緻。細砂と雲母を含む。
50.口縁部破片。口唇背に貼り紐して平担化し,頚部に隆線を廻らせ口頚部文様帯を区画する。区画部に楕円状区画帯をつくり内部に斜行する結節沈線を併列して充填する。隆線の背に刻み目。胴部に横位の刻み目文をつける。黒褐色で細砂と雲母を含み焼成良好。
51.口縁部破片。口縁内側に稜がある。2本セットのヘラ押引き沈線で口頚部文様帯を充填したもの。隆線区画によらないらしい。黒褐色で多量の雲母を混え焼成良好。
52.口縁部破片。口唇部を肥厚させて平担化し外反させる。口縁部に隆線を貼って横帯文を区画する。区画部周縁にキャタビラ文を施し,中位にも横位の同じ施文をする。器面は黒色。細砂と多量の雲母を含み焼成良好。
53.口縁部破片。口頚部にY字状の隆線を貼付するが,垂下する隆線を省略する。地文なし。胎土に多量の雲母を含み焼成良好。
54.キャリパー状深鉢形土器の口縁部破片。口頚部の上半部に文様が集約する。口唇が外傾し,口縁に添って太い沈線を廻らせ,内側に稜がある。文様は太い屈曲する隆線を対称的に貼りつける。隆線の片側に沈線を引く。上半部全体に縄文を施す。砂粒と多量の雲母を含み,器面は黒褐色,焼成堅緻。
55.浅鉢の口縁部破片。口縁部が外反する。器面を平滑に調整し,頚部に対称的な曲線文を貼る。器面は赤褐色で細砂と多量の雲母を含み焼成堅緻。
56.口縁部破片。口唇部を肥厚させやや外反させる。これにとりつけて口縁部文様帯を区画したらしい。区画部周縁にすりけし的な線引きをする。内部に縄文を施す。火熱で部分に黒斑がある。細砂と若干の雲母を含み,焼成良好。
57.口唇内側が外側する深鉢形土器の口縁部破片。口唇を肥厚させ横転しの縄文を施し,以下の器面に同じ原体で縦転しの縄文を施す。
58.中型キャリパー状深鉢形土器。口唇部を肥厚させ外傾させる。口唇外側は稜をなし,それに押圧して刻み目を加える。波状口縁で波頂部は2対応。真上からみると楕円状を呈する。口唇部及び器面の全面に縄文を施す。長石類等粗砂を含み,赤褐色で,火熱により器面が粗い。
59.口縁部破片。山状の波状口縁の頂部。三角状区画部に縦位の隆線を貼り,つけ根にキャタビラ文を伴う。黒褐色で,多量の雲母を含み焼成堅緻。隆線は断面三角。
60.深鉢形土器の胴部破片。底部に近い部分か。横位の隆線は胴部文様帯の下縁。キャタビラ文を伴う隆線を屈曲させて文様帯を構成したらしい。黄褐色で,長石類を多量に含む。内外面とも摩耗が著しく,焼成不良。
61.大型浅鉢形土器の口縁部破片。台形状波状口縁が何対か対応するらしい。口縁に沿って肥厚部が段差を以って廻る。器面は無文。赤褐色で多量の雲母を含み焼成良好。内壁は平滑に調整している。外壁に黒斑がある。
62.浅鉢の口縁部破片。くの字状に屈曲する部位に蛇行する隆線を貼り背に刻み目文をつける。頚部に隆線で横帯文を区画し,内部に縄文を施す。区画部の周縁に半截竹管で結節沈線を引く。粗砂と多量の雲母を含む。焼成不良でもろい。
63.胴部破片。くびれ部に隆線を廻らせて上下に文様を区画したその下部。この隆線にとりつけてY字状の隆線を垂下させ器面を縦割りする。区画部に地文の縄文を施す。隆線に沿ってヘラ押し文を施し,内部に鋸歯文で縦位の区画文を描く。茶褐色で,器面に炭化物がこびりついている。粗砂と雲母を含み焼成良好。
64.口縁部破片。口唇は内傾し内側に稜をもつ。口唇背に蛇行する隆線を廻らせ,結節沈線を伴う。器面に縄文をつける。主文様ではなく附帯文の一部である。細砂と雲母を含み焼成堅緻。
65.口縁部破片。地文に粗雑な縄文をつけ,直線と鋸歯文を組合せた結節沈線を口縁部に廻らす。口縁部に波状部があった痕跡がある。薄手で胎土は精良,焼成堅緻。
66.キャリパー状深鉢形土器の口縁部破片。内弯する口頚部の上半部に平行隆線を貼って文様帯を区画し,下半部は地文に縄文を施す。上半部文様帯は,口縁下の部位に長方形の結節沈線による区画文,その下は背に指圧痕を加えた隆線を貼って長楕円状の横帯文をつける。下半部は上位の横帯文に対応してY字状に隆線を貼り,両側に結節沈線を伴い,隆線は断面三角で,屈曲部から波状に隆起部が出ている。隆線にとりつけて結節沈線を施し胴部文様としたらしい。黒褐色で細砂と雲母を含み焼成堅緻。
67.口縁部破片。口唇が外傾する。頚部に背の尖った隆線を廻らせ上半部文様を区画。区画部に浅い縄文をつけ,結節沈線で横帯文を描く。黒褐色で,粗砂と雲母を含む。
68.円筒状の胴部の破片。背の尖った隆線を垂下させて胴部文様帯を区画,3または4単位に縦わりしたらしい。隆線の背に間隔のひらいた刻み目がある。区画部に2本セットのヘラ描き沈線で渦巻文をモチーフとした曲線文を描く。地文なく器面は黄褐色で凸凹あり調整不充分だが,裏面は黒色でよく調整されている。胎土に粗砂と微量の雲母を含む。
69.口縁部破片。口頚部が内弯する深鉢形。口頚部に横位のS字文を貼付連結する。地文に縄文を施す。S字文に連鎖させて細い隆線を胴部に貼っている。器面は赤褐色で火熱をうけているが焼成堅緻。若干の砂粒を含む。
70.胴部破片。口頚部無文帯の直下の部位。地文にベタに縄文を施した後,細い貼り紐で胴部文様を構成する。隆線間の一部をなぞっている。破片の下辺は継ぎ目の剥離。淡黄褐色で粗砂と雲母を含む。器壁は荒れているが焼成良好。
71.内弯する口頚部の破片。下半部か。等間隔の無文部を隔てて縄文の条が併列して施文されている。赤褐色で雲母を含み焼成堅緻。
72.口頚部が外反してくびれ,胴部がふくらむ深鉢形。地文に粗雑な縄文をつけ,くびれ部にヘラ描きで一本の鋸歯文,3本の平行沈線を引く。これに連結させて胴部文様を描いたらしいが欠損して不明。沈線は微かに結節がある。器面は灰褐色で火熱をうけ黒斑がある。裏面は平滑に調整している。胎土に細砂を含み焼成良好。
73.口縁部破片。肥厚した口唇を外反させる。図の文様は器面の内側である。円環状の凸帯をつけ,外縁に鋸歯状の浮線を貼る。その浮線を口縁に沿う隆線として延長する。以下の器面に縦の細い隆線を併列させて文様帯を構成する。きわめて特異な土器である。粗砂を含み,赤褐色。外壁は凸凹あり調整不完全で,長石粒が露出する。この土器は口縁部内側に文様の主体があったものか。
74 中型キャリパー状深鉢形土器。口縁直下にY字状に粘土紐を貼った突起をつける。この突起から隆線を垂下させない。突起は4対応かと考える。口縁下をえぐって口縁部を一条の施文帯として浮き出させ刻み目を施す。同じ刻み目をくびれ部直下にも施す。器面は黒色で細砂と大量の雲母を含み焼成良好。
75 中型キャリパー状深鉢器土器の口頚部破片。口唇は尖らされるが,口縁自体が水平でない上,器面にも凸凹がある。無文。内壁は平滑に調整している。つくりが粗雑で,口縁・外壁に仕上げの調整をしていない。暗赤褐色で焼成良好。細砂を含む。雲母は含まない。火熱をうけ,外壁にススが附着,内壁の弯曲部以下に厚く炭化物がこびりついている。
76 中型深鉢形土器。口縁に沿って隆線を貼り,背に刻み目を施す。以下の器面に粗雑な縄文を施し,頚部に鋸歯文を廻らせている。細砂を含み焼成堅緻。器面は灰褐色,火熱をうけている。
77 キャリパー状深鉢形土器。4対応する山形波状口縁で波頂部は円板状の凸帯をなす。口唇に粘土紐を貼って肥厚させ,外傾する平担面をつくり出す。文様はこの口唇部に集約される。凸帯の両脇にヘラ押し文で渦巻文を浮き彫りし,これを平担面に貼った蛇を思わせる鋸歯文に連続させる。鋸歯文は背に縄文を施され,断面は四角,両側にヘラ押し文を伴う。この鋸歯文は,凸帯の右側では渦巻文に直接連結するが,左側では波状口縁の〝谷〟近くの部分で渦巻文の延長線と連結している。欠損が甚しいので不確かだが,口頚部は地文の縄文だけを施したものらしい。粗砂を含み焼成堅緻。雲母は含まない。黒褐色で,かなり火熱をうけており,内壁にはススが付着している。
78 小型キャリパー状深鉢型土器。山形の波状口縁が4対応。口唇を肥厚させる。波頂部にY字状の隆線を貼り蛇行しながら器面を垂下させる。隆線の断面は丸みをもちキャタビラ文・波線などを伴わない。貼り紐後に器面全体に隆線の背の一部も含めて縄文を施す。器面は赤褐色で部分に黒斑があり,火熱をうけている。若干の細砂を含み焼成良好。
79 口縁部がやや弯曲しながら外反するキャリパー状深鉢の中型土器。くびれ部に隆線を廻らし,口頚部と胴部の文様帯を区画する。器面の全面に縦転しの太い縄文を施して地文とした後,隆線を貼って文様帯を区画している。雲母・細砂を含み焼成は堅緻。
 口頚部は対応する三角錐状の把手が4個(2個は欠損)ある。把手の背の稜は口頚部の上面に垂下して突帯となる。この把手の間を幅広の無文帯が連結しそのつけ根に粗い刻み目文が廻らされる。口唇内壁は段差があり,内壁全面に平滑に整形されている。
 口頚部のくびれ部に隆線を廻らし,それを基点として対応する4本の隆線が垂下して胴部の器を4つにタテ割りしている。垂下する隆線は上位の把手の中間位置からで,基点はY字状に隆線をとりつけている。くびれ部の隆線の両側に粗い刻み目文を施す。垂下する隆線の背には,ヘラ押しらしい左傾する連続圧痕文を施す。タテ割りされた胴部器面には,上下2段の横位の刻み目文を施す。底部は凸凹があるが,外周部に網代の圧痕が部分的に認められる。
 胴下半は淡褐色,上半部は黒褐色を呈し,相当期間煮沸用に供された土器であることが伺われる。
 この土器は地文に縄文をもち,結節沈線も省略化の傾向をもつ点などから各地方の阿玉台式では最も新しい段階に位置づけられるものと考えられる。
80 浅鉢。口縁部を内弯させて成形した後,口縁部に貼り紐して平担な肥厚帯をつくり出し,屈曲部に断面三角の隆線を貼って口頚部文様帯を区画する。貼り紐した後,器面に密着させるため化粧塗りをしている。隆線の稜をもって屈曲部以下の器面と区分する段差とする。文様帯は隆線を縦に貼って都合6カ所に対応する文様があったらしい。全く沈線を伴わない。貼り紐が剥離し,粗末なつくりである。火熱をうけ,赤褐色でもろい。細砂を含み雲母は含まない。
81 小型円筒状土器。口唇外側に粘土紐を貼って肥厚させ,その平担面に3条の原体圧痕文を施す。口縁直下にも隆線を廻らせ一条の区画帯をつくり出す。隆線の背は尖っている。区画帯は2対応するS字文の突帯をつけ,その間に細長い楕円状の区画部を2対応させる。S字文は背をえぐる。胴部にまばらに縄文を施すが他の施文をしない。器面は黒色,火熱をうけ炭化物が附着。砂粒と多量の雲母を含み焼成良好。
82 頚部でくびれ,上半部が外反する深鉢形土器。口縁部を大部分欠損しているが,S字文をモチーフとする把手が4対応していたらしい。把手の縁に鋸歯状の浮文が貼付された痕跡がある。くびれ部に隆線を廻らせて,口頚部と胴部の文様帯を区画する。区画線は部分が結節となる沈線を伴う。口頚部文様帯は把手を基点とし沈線による4対単位の区画文を施すが欠損しているので不明瞭。胴部は把手に対応して,垂下する単隆線と2本セットの蛇行沈線とを交互に対置し全体を4単位に割りつける。器面全面にベタに縄文を施し地文とする。灰褐色で細砂を含み焼成良好。火熱で器面に黒斑がつき損傷が甚しい。
83 中型深鉢形土器。口縁部がやや外反し胴が張る。口縁に2本の背の尖った隆線を貼って一条の突帯をつくり出しS字文をつける。S字文は4対応かと見る。器面全面に縄文をつける。器面は茶褐色で,火熱により部分に黒斑がある。胎土は精良で多量の雲母を含み焼成は実に堅緻である。
84 大型の深鉢形土器胴部個体。底部が若干残り胴部の3分の1ほど。器面全面に地文の縄文を施した後に粘土紐を貼付して文様を構成している。頚部のくびれ部直下に,隆線による細長い横帯文(長さ5.5cmほど)を連結させて一周させ口頚部と胴部の文様帯を区分する。横帯文の連結部はX字状を呈し阿玉台式の名残りをとどめる。口頚部には2本セットの隆線で矩形様の文様をつけたようだが欠損しているので不明。この隆線は背が尖りつけ根にヘラ描きの沈線を伴う。胴部は1本の隆線で横位に展開する渦巻文を施す。図の渦巻文を1単位とみて3単位に割りつけしていたものと考えられる。焼成良好で雲母を含む。
85 口縁部がラッパ状に外反する大型の深鉢。口頚部と胴・底部のそれぞれ一部が欠損。阿玉台式。粗い手づくねの跡が残り,頚部には口縁部をとりつけたときの指の圧痕が4つほどそのまま残っている。胎土に粗砂と雲母を含み,器面は,内壁は平滑に調整されているが,外壁は凸凹があり口頚部あたりでは横ナデ胴部では縦ナデの調整痕がみられるものの調整不充分である。無文で焼成はよく,焼こげの跡があるから実用本位の煮沸用であったらしい。底部には外周部に網代痕がある。口唇は凸凹があり整形が不充分である。割れ目は巻上げの粘土の継ぎ目から割れている。胴下半は赤褐色,胴上半はススが付着して黒褐色を呈し,かなり長期間にわたって煮沸に用いられたことが看取される。
86 口縁部破片。平担化した口唇部に角押文を施す。内弯する口頚部上半に文様帯を集中する。隆線で楕円状の横帯文を区画し,隆線内側に結節沈線を一本引く。器面調整は不充分だが,赤褐色,部分に灰褐色を呈しティピカルな阿玉台式。細砂と多量の雲母を含み焼成堅緻。
87 口縁部破片。口唇内側が外傾する。口頚部にキャタビラ文で区画帯を描き,内部を斜行する結節沈線を併列させて充填する。器面は灰褐色,胎土に粗砂を含み焼成良好。内壁は黒色,殆んど雲母を含まない。
88 キャリパー状深鉢形土器の胴部破片。器面全面に地文の粗い縄文を施し,くびれ部に隆線を廻らせ上下文様帯を区画する。この隆線に連結させて胴部文様の隆線を貼る。隆線は断面三角で,両側に深く太い沈線を伴う。沈線は隆線のつけ根をえぐるように引く。器面は栗色で火熱をうけ炭化物が附着している。多量の長石類を混えた粗砂を若干の雲母を含み焼成良好。
89 口縁部破片。口唇外側に粘土紐を貼って肥厚させ平担化している。これに接続して隆線を貼り区画帯をつくる。隆線に沿って結節沈線を引き内部に鋸歯文を上下に併列させて充填する。赤褐色で焼成堅緻,殆んど雲母を含まない。
90 口縁部破片。口唇外側を肥厚させ,若干外傾する。肥厚部に沿って結節沈線をひき,器面に縄文を施す。口縁部と以下の器面で施文方向が変る。頚部以下に半截竹管による曲線的な施文があったらしい。胎土に細砂と若干の雲母を含み焼成堅緻。器面は暗栗色。
91 口縁部が外反する深鉢の口縁部破片。口縁に付帯を廻らせ器面に縄文を施す。頚部に半截竹管の押引き平行沈線を廻らす。同じ工具により付帯部の下と沈線文の上部に横位の爪形文を併列する。器面は赤褐色,細砂を含み焼成良好。
92 山形波状口縁の破片。その基部が肥厚し口縁部肥厚帯に接続する。頂部にきざみ目があり口縁部肥厚帯の背に縦の平行沈線をすだれ状に引く。胴部には地文に粗い縄文を施しヘラ描き沈線で渦巻文をモチーフとする文様をつける。細砂と少量の雲母を含み焼成堅緻。火熱をうけ黒斑があり器面は粗い。
93 口縁部破片。山形の波状口縁の波頂部で下辺は継ぎ目が剥離したもの。頂部の裏側か表側へ隆線を貼って口縁に併走する隆線に結ぶ。口唇外側と隆線の背に指圧痕を施し,一部に指紋がついている。器面は灰黒色,凸凹があり調整されていない。砂粒を少量含み焼成良好。
94 大型キャリパー状深鉢形土器の口縁部。4対応する円状の波状口縁を呈するものらしい。口縁部に隆線を廻らせて上・下段に区分し,上段はほぼ直立,下段は外傾する形状でその屈曲部に隆線が廻っているもの。波状部の頂部から隆線を垂下させて前述の隆線に連結する。口縁部上半に文様帯を集約させるタイプだが,この土器は区画帯やその他に櫛引文をつけたのみで他の施文はないようである。この櫛引文は地文に縄文を施す場合と同じ扱いのものと考えられる。器面は茶褐色で粗砂を含み,白い長石粒の点在が目立つ。
95 大型キャリパー状深鉢の口縁部破片。4対応する山形波状口縁で,口唇外側に粘土紐を廻らせ,頂部から隆線で渦巻文を施す。区画部内に櫛引きの浅い沈線を施して地文とし,隆線に沿って2本の併走沈線を廻らせ,内部に鋸歯文を引く。波頂部に刻み目を加える。口縁内側に段差がある。器面は茶褐色で焼成良好,胎土に雲母を含む。内壁は暗灰色。
96 キャリパー状大型深鉢形土器の扇状波状口縁の頂部破片。口唇外側に隆線を貼って肥厚させ,頂部に対応して断面三角の隆線を貼って渦状文を描く。地文に縄文をつけ,口唇や縁にも施す。隆線つけ根に半截竹管の押引き文を引き,さらに鋸歯文を施す。長石粒を含む粗砂と多量の雲母を含み焼成堅緻。
97 扇状把手の頂部。半截した竹管の背を手前にして器面に対して鋭角に保ち連結した施文し,区画部内を充填したもの。点列の間には圧痕がないので施文に用いた竹管の端をえぐっているものと考える。頂部に4つの刻目をつける。器面は茶褐色で焼成良好。裏面は平滑に調整している。胎土に多量の雲母と砂粒を含む。
98 山形口縁の裾部右側の破片。地文に縄文を施し粗雑な沈線で文様帯に曲線文を描く。波状部には隆線を貼ったらしいが痕跡的。胎土に長石類を混えた粗砂を混入し焼成良好。裏面は口縁部を肥厚させて段差をつけるが,波状部に表の文様と対応させて円形皿状にくぼませた段差部分をつくり出したらしい。雲母を含まない。
99 キャリパー状大型深鉢形土器の扇状波状口縁の頂部破片。口唇部を肥厚させ,内側は段差がある。頂部から断面三角の太い隆線をくねらせて垂下させ文様帯を構成する。隆線つけ根にキャタビラ文を施し,内部をヘラ描きの沈線で三日月状に区画,その中に鋸歯文を描く。器面は内外とも平滑に調整し,灰褐色を呈し焼成堅緻。胎土に砂粒と多量の雲母を含む。
100 大型深鉢形土器の口縁部。口縁内側に段がつく。口唇外側に隆帯を廻らせ,その下に口縁部文様帯を施す。隆線による三角文をつけヘラ状工具による押引き文をつけ根に施す。帯状区画をする隆線に沿ってキャタビラ文,その間に平行線・鋸歯文を沈線で引いている。器面は赤褐色で,胎土に多量の砂粒を含み,かなり磨滅して荒れている。
101 キャリパー状深鉢の口縁部破片。口頚部の上半部分に文様を集約する。区画部はヘラ押文で縁どりし,円環状の突帯を貼る。その両側にヘラ描き沈線による長方形区画部を配する。火熱により赤褐色で若干の砂粒と細礫を含むが焼成堅緻である。
102 キャリパー状深鉢の口縁部破片。口頚部上半に文様を集約する。口縁に沿って太い沈線を引いて,以下の文様帯に地文の縄文を施し,渦巻文を型どった突帯をつけ,それから隆線を延長する。文様帯の下限となる線引きはない。文様帯には沈線による渦巻文をチモーフとする施文があったらしい。器面は灰黒色,内面は黒色で火熱をうけている。砂粒と多量の雲母を含み焼成良好。
103 円筒状の胴部破片。器面に,斜め上方からダンラク状に屈曲して底部近くに至る隆線を貼り,屈曲部に円環状の突帯をつける。地文はなく,胴部の余白部を渦巻文をモチーフとする曲線文をヘラ描き2本セットの沈線を駆使して充填している。部分に結節がみらる。器面は赤褐色で火熱をうけ部分により灰褐色。細砂と多量の雲母を含み焼成良好。
104 口頚部が内弯する甕形土器? 口縁部破片。口唇外側に隆線を貼って肥厚させ外反する。この隆線は背に刻み目をもちその両側に結節沈線を引く。器面に縄文を施す。縄文は縦位の無文部が等間隔に併列する。頚部に横走する隆線を貼りそれぞれ片側に結節沈線を伴う。器面は黄褐色で焼成堅緻,裏面も平滑に調整されている。胎土に粗砂と若干の雲母を含む。
105 胴部破片。粘土の継ぎ目が剥離。地文に細い縄文を施し,キャタビラ文で囲まれた区画部分に鋸歯文を沈線で描いた区画文を施す。褐色で若干の雲母を含み焼成堅緻。
106 口縁部破片(或は胴部くびれ部直下か)。口唇外傾。口縁に沿って半截竹管による平行沈線を引き,ヘラ押し文とキャタビラ文で渦巻文の間に押引きする。キャタビラ文は2本セット。器面は茶褐色,長石類を混えた粗砂と微量の雲母を含む。
107 胴部破片。地文に縄文を施し,両側に結節沈線を伴う細い隆線を貼って胴部文様とする。横位のY字状のとりつけ部分は阿玉台式の残影か。灰色で細砂を含み焼成堅緻。
108 頚部でくびれ胴部がふくらむ大型甕形土器の胴部破片。くびれ部に隆線を廻らせ胴部に渦状文をつける。隆線は一本でつけ根に結節沈線を施す。地文に縄文をつけた後に施文している。器面は褐色,雲母を若干含み焼成堅緻。裏面は灰色で火熱をうけているものと思われる。
109 胴部破片。地文に縄文をつけ。2本セットの細い隆線を横走させる。隆線には波状の沈線を組合わせる。区画部にジグザグの沈線文を2本セット(上方は3本)で引く。黄褐色で若干の雲母と粗砂を含みもろい。
110 大型甕形土器の胴部破片。細い背の尖った隆線を貼って文様帯を区画し,内部に地文の縄文をつける。縄文は縦の無文部が併列する。区画部に結節沈線で渦巻文を描き,それに連結させて蛇行する単沈線を引く。器面は黄褐色で粗砂と雲母を含み焼成堅緻。
111 深鉢底部。器面は無文で垂下する2本セットの隆線を貼る。平底で底面は無文,赤褐色で粗砂と若干の雲母を含み焼成良好。底部近い内壁に炭化物が多量に附着している。
112 口縁部が外反する深鉢の口縁部破片。口縁に隆線を廻らせて一条の文様帯をつくり,貼り紐でS字文をつける。紐の背はえぐり,2本の隆線にみせかける。以下の器面には縄文だけを施文する。器面は赤褐色,粗砂と多量の雲母を含み粗く,もろい。
113 口縁が外反し肩が張った甕形土器の口縁部破片。肩部に隆線を貼って区画帯とし,内部に渦巻文を施す。隆線の断面は三角。施文後に地文の縄文を施したため隆線にもつけられている。縄文は短い原体で等間隔に縦回転を繰り返して施している。細砂と若干の雲母を含み焼成堅緻。火熱で器面に黒斑がある。
114 胴が少し張る甕形土器の口縁部破片。口唇外側と頚部に断面三角の隆線を貼り胴部に縄文を施す。口縁を廻る2本の隆線は区画文様につくられていたらしい。器面は黒色で火熱をうけている。胎土に砂粒と雲母を含む。
115 口縁部破片。口縁に2本の隆線を廻し,下の1本に指圧痕をつける。地文に縄文をつけ頚部へヘラ描きの2本セットの平行沈線を廻らす。その下に結節沈線により曲線文を描く。内壁は平滑に調整している。器面は黒色,胎土に若干の雲母と砂粒を含み焼成堅緻。
116 上半がゆるく開く深鉢形土器の胴部破片。地文に軽く縄文を施し,2本セットの細い隆線を貼って,直線構成による区画文をつけたらしい。火熱をうけ器面は赤褐色を呈し粗い。粗砂と雲母を含む。
117 大型土器の胴部破片。地文に縄文を施し,背の尖った隆線を貼って渦巻文をモチーフとする入り組文を描く。火熱をうけ破片の上部は灰黒色,下部は灰褐色を呈し器面は粗い。裏面は赤褐色で平滑,胎土に粗砂と雲母を含む。
118 口縁部破片。口縁部がくの字に外反し,口唇は尖らされ内傾部分はえぐられて内壁に接する部分の稜をなす。口唇外側に隆線を貼り指圧痕をつける。この下にもう1本隆線を貼る。器面には地文に縄文をつけヘラ描き沈線で渦巻文を描く。細砂と微量の雲母を含み焼成堅緻である。
119 大型甕形土器の胴部破片。胴中部に断面三角の隆線を廻らせ上下文様帯を区分する。地文に縄文を施しヘラ描きの2本セットの沈線で渦巻文をモチーフとし,鋸歯文を組合せた入組み文的な文様を描く。長石類を混えた細砂と多量の雲母を含み焼成良好。火熱をうけ部分に灰褐色の黒斑がある。
120 口縁部破片。頚部でくびれ口縁部が外反する器形。波状口縁の頂部からくびれ部を連結する把手があったらしい。口唇外側に連続指圧を加える。頚部に鋸歯文を引く。器面は灰褐色,裏面は褐色,胎土に砂粒を多量に含む。
121.キャリパー状深鉢の大型土器。口頚部が外反,胴部はバケツに近い円筒状。赤褐色を呈し,胎土に白く長石類の粗砂を含む。焼成不良,器面は摩耗してザラザラしている。雲母は含んでいない。
 口頚部は上部に文様が集約されている。口縁部に半円形に突出する扁平な把手が4個対応する。口唇内側は4cm幅で肥厚し以下の器面とに段差がある。頚部中位に廻らせた隆線で上部の把手を主体とする文様帯を区画する。把手は現在は2個しかない。把手は先端が尖りぎみの半円形で内弯する。中央部(口唇の延長線上)に円孔を通じ,この円孔の回りに貼った隆線を「3」字状に垂下させて頚部の隆線に連結する。連結部は背を尖らせて右へ捻り円形のくぼみを作りだす。把手の口縁部スソ部から隆線が伸び出し,把手と把手の間の文様帯を描く。隆線で隅丸の逆三角形状の区画帯をつくり,その内部に頚部の隆線に接続して楕円文を貼る。楕円文は右側の背を肥厚させ,把手の基部の円形くぼみ同志の中間位置につくり出される。逆三角状の区画内はキャタビラ文に沿って単沈線をひき,その内部に波線をひく。把手部の隆線には尖ったヘラ先でつけた結節沈線,把手間の口縁部区画帯にはキャタビラ文が施される。
 口頚部下半は無文。頚部に隆線を廻らせて以下の器面を区画する。
 胴部は下半を欠損しているが,モチーフとなった文様はほぼ分かる。器面は4本の擬似三次曲線状の隆線が垂下し,その変曲点部位が肥厚して右側へ押しつぶされ円形のくぼみがつくり出される。円形のくぼみはほぼ等間隔に4個,上位の把手に対置されたように並ぶ。胴部に垂下する擬似三次曲線状の隆線は,変曲点までは1本で,変曲点以下か2本になるものと,終始1本のものとが交互に配置され,後者の隆線を中心に胴部文様が施されているので,器面は大別して二面になる。文様は対応する。隆線のつけ根にキャタビラ文をつけ,それで囲まれた区画帯を2本セットの沈線で囲む。内部は無文。沈線は浅く巾広で痕跡的であり,かなり粘土が乾いてからひいたことがわかる。
122.大型キャリパー状深鉢の胴部。くびれ部以上は欠損,底部も欠損している。くびれ部に1本の隆線を廻らし,底部近くに2本の平行隆線を廻らせその間に胴部文様を施す。胴部文様の主体は6個の連弧文で,弧の上部はヘラ描きで三角文を二重に施し,弧の下部は2本セットの鋸歯文で弧の起伏に沿って大波状の曲線文を描く。隆線は最下段のものを除いて両側にキャタビラ文を伴う。くびれ部の隆線の上側に2本セット,下段の隆線間に単沈線でそれぞれ鋸歯文を描く。文様帯の余白部処理に三角文を多用したり,胴部下位部分の隆線貼附による底部附近の器面装飾など勝坂式の要素をもつ土器である。器面は赤褐色ないし灰褐色で著しい火熱をうけ器壁が荒れている。粗砂を含みもろい。若干の雲母を含む。内部は平滑に調整している。
123.キャリパー状深鉢の大型土器。胎土に粗砂と若干の雲母を含み,器面はもろく水にとけやすくざらざらしている。器面全面に白く長石類が浮き出して見える。胎土に混入した粗砂は雲母を含む原石を砕いて粘土に入れてこねたものらしい。
 口縁部の一部と胴下半部とを欠損している。胴上半部は個体のまま出土し,口縁部は割れてバラバラで出土した。赤褐色を呈し焼成良好であるが,二次的な火熱の作用が著しい。
 胴部は上部が開いた円筒形,その上に外反する口頚部,直立する口縁部がついて阿玉台式独特のキャリパー状器形を呈する。
 文様帯は口縁部と胴部に区画される。
 口縁部は半円状の把手が4個対応して大波状を呈する。口縁部が直立する屈折部分に,背の丸い太い隆線を廻らせ,把手の部位ではΩ(オーム)状に屈曲する。その隆線と肥厚させた口唇部とにより把手の間に対応する4つの口縁部文様帯をつくり出す。この文様帯は,ヘラ押しの連続刻み目文で区画し,その内部に横走するジグザグの沈線をひく,把手のΩ状隆線のつけ根にだけにヘラ押しの連続刻み目文を施す。口頚部は無文。
 胴部は,くびれ部の直下に背の丸い太い隆線を廻らせて胴部文様帯を区画する。この隆線の上位にジグザグの沈線を廻らす。胴部文様は,この隆線を基点にして,アーチ状に貼った隆線を垂下させる。このアーチ状隆線は3対あり,上方の口縁部文様帯に対応せず,胴部だけが独立した文様帯になっている。胴部文様は,3つのアーチ状区画帯とその間にはさまれた3つの三角状の区画帯との,都合6つの区画帯にタテ割りされる。隆線のつけ根には沈線を引き,それにそって区画帯の内側にジグザグの単沈線を引く。胴部の沈線には結節沈線を使っていない。
 この土器は器形や,背の丸い隆線を貼った技法などから阿玉台の新しい段階に位置づけられるが,長石類を多量に胎土に含む胎土の在り方は当地方の新しい段階の阿玉台式に特徴的なものである。これは長石類・雲母を含んだ原石をよくつき砕いて混入した結果であろうと考えるが,細砂と大量の雲母を胎土に含んだ古い段階の阿玉台式のつくり方とは明らかに異なるもので,土器製作上の変化としてとらえられるのではなかろうか。こうした新しい段階の阿玉台式における胎土の在り方は当地方では類例豊富でかなり一般化した現象であるように看取される。
124.キャリパー状深鉢形の大型土器。円筒部の胴部・外反する口頚部は内弯して直上する。屈曲部位に角ばった隆帯を廻らせるので外見上は口縁部が直立しているように見える。口縁部にそびえ立つ豪壮な4個の把手,鋭く太い隆線で区画帯をつくり出し,余白部を強い刻線で充填,全体的バランスがとれ,重厚,力量感に溢れた土器である。胎土に雲母と白い長石類の粗砂を含み,焼成堅緻,黄褐色を呈する。
 文様帯は,4個の把手を主体とする口頚部上半・地文の縄文だけの下半・頚部に廻らせた隆線で区画された胴部の三段に分かれる。
 4個の把手により波状口縁を呈するが,口縁は上から見ると菱形になり,胴部の内壁が円形を呈する見事な対照をなしている。口唇は幅2.5cmほどで肥厚している。
 実測図の把手はこれ1個だけが特異で,他の3個は扁平である。その特異な1個は頂部が剣先状に尖り背に刻目をつけ,それに対応して舌状の突帯をつける。舌端は頚部を廻る隆線と接して肥厚し,そこから円孔が器壁に沿って貫通する。他の3個の把手は扁平で,頂部は背に太い沈線で刻みを入れた三又状を呈し,頚部を廻る隆線と口縁部肥厚帯とからそれぞれ伸び出した隆線で三日月状の区画部をつくり出し,余白部をキャタビラ文で隙間なく充填している。三日月状部を区画した隆線は椎骨状の突帯となり円孔が貫通する。頂部の三又と対応している。上段の文様は,隆線に沿って刻目ないしキャタビラ文を施し,把手間の区画帯にはタテの刻線を併列させて,全体に寸分の隙間もなく文様で充填している。
 中段の文様帯は口頚部下半で,細い縄文だけ。タテ転しで,文様区画の終った後の施文。指で強く押捺された部分と縄文がついていない部分とがある。かなり丁寧に施文している。
 下段の胴部文様帯はこの土器が胴下半部を欠損しているため胴部の上半部しかわからない。文様帯はタテ割りされない。実測図の剣先状把手に対応し,くびれ部から伸び出した隆起曲線が一たん捻れて上昇した後,斜め下に下向する。この隆線はy=x3のグラフに似ている。その変曲点あたりは隆線の背は尖らせられている。この隆線は他に二本,三又状把手に対応するものと,把手間の部位におかれるものとがあり,器面は隆線で三つに分割される。隆線のつけ根両側にキャタビラ文を伴う。実測図中の隆線の右側の器面は,隆線に沿って2本セットの沈線で区画し,その区画帯に縄文をつけて,その外周に波線を廻らせている。その左側の隆線で画した区画帯はやはり2本セットの沈線で囲み,変曲点までで囲んだ器面には口頚部文様と同じタテの刻線をひき,その左隣りの器面は,くびれ部の隆線から延長した渦状の隆線をつけ余白の器面に縄文をつけたり沈線で三角をつけたりしている。この刻線区画・渦状隆線装飾の文様帯は胴部文様のおよそ二分の一にあたり,それは剣先把手の側と正反対の位置にあたる。次の隆線で囲まれた区画帯は最初のものとほとんど変らず,変曲点の左側余白部に斜めの刻線が一部見える他は縄文帯を2本の併行沈線と一本の波線で囲んだもの。器面を均等なタテ割りにせずに,1:1:2の比で,その2に文様の主体をおき,この中に見られる渦状隆線文様は勝坂式的な要素を感じさせる。遷年的には阿玉台式末期に位置づけられる土器で,その中に勝坂式の影響もあることは興味深い。
125.キャリパー状深鉢の大型土器。口縁部が富士山状の大きな把手が四個対置・屹立する。外反する口頚部の上位三分の一ほどに隆線を廻らして,把手を主体に口縁部に文様を集約させる。口頚部下半は地文の縄文だけ。くびれ部に隆線を廻らせて胴部文様を区画する。焼成堅緻で,器面は黄褐色を呈し,胎土に細砂と多量の雲母を含む。器面の余白部に施した縄文は原則的にはタテ転しだが,一部に横転しもみられ,隆線による文様区画終了後に施文した〝充填縄文〟である。
 口唇部は肥厚し,把手の周縁は厚さ2cmほどの稜になっている。この把手の稜のスソ部は把手相互の中間位置で,この部位に「X」字状に隆線が連結し突出して,把手の頂部を中心に富士山状の区画帯を形成する(実測図)。この区画帯は,頂部左端から伸び出した背の尖った太い隆線が左巻きの渦状文を描き,渦状文は下端で頚部を廻る隆線と接触して突出する。把手間の中間部位の区画線接触部では,その右側に半円の隆線を貼って円形区画部をつくり出す。隆線に沿って粗大な結節沈線を廻らす。この結節沈線に沿って沈線を引き,区画帯内に縄文をつける。施文の順は,隆線貼付→結節沈線→区画帯内に縄文施文→沈線。この区画帯はほとんど同じ施文がくり返されているが,部分により沈線が2本になっているところがあったり,把手の一つは渦状文が左巻きになったりしている。
 胴部文様は,くびれ部の隆線と胴下位に廻らせた隆線とで区分された部分に施文。頚部の隆線に連結される擬似第三次曲線状の隆線が3本,その変曲点部位が肥厚して突出する。その突出部は3個,器面を二分したその片側に等間隔で配列される。つまり胴部の器面は,変曲点3個がある片面とそれがない片面との二面になる。前者の器面は,両側を変曲点突出部に区切られ,中は上縁から半円状に垂下った隆線と下縁から不整形区画(右側は「く」字に屈曲)の隆線とが伸び出して胴部中間位置で接触,この面の主体文様となっている。下位隆線右側の「く」字状屈曲は阿玉台式に一般的にみられる文様の一つで,その部位の隆線が背が尖り右へ押しつぶされているのも伝統的な特徴である。後者の器面は,上縁から垂下った隆線が〝耳〟を思わせるように屈曲する。この隆線の左側に2本の沈線が孤状にひかれその内側に蛇行沈線が垂下する。胴部の器面は,隆線とそれに伴う結線沈線が主体で,その結節沈線に沿って単沈線をひいている。器面の余白部に縄文をつけているが,前述したように,隆線による器面装飾が終了した後に施文したものである。器面下位を区分する隆線の下は無文で平滑であり勝坂式と共通する特色を持っている。
 器形と施文上の特色から阿玉台式の新しい段階に位置づけられる土器である。部分的な欠落はあるが,ほとんど完形,全体的にバランスのとれた重量感にあふれた土器である。
126.大型キャリパー状深鉢形土器。4対応する山形波状口縁をもち,口縁部上半の隆線区画部に文様を集約,下半部は無文である。波状部に三角状区画帯をつくり,それが4個連鎖する。頂部から隆線で渦巻文を垂下させその左右は沈線で斜線や三角文を引いて余白部を充填する。渦巻文は,単にキャタビラ文を伴うだけのものと,図のように結節沈線による渦巻文を伴うものとがあり,それぞれが2対になっていたものらしい。器面は赤褐色で細砂と多量の雲母を含み焼成は良好,火熱をうけ部分に炭化物が点々とこびりついている
127.小型壺形土器。口縁下側に隆線を廻らせ背に刻み目をつける。隆線の上側に結節沈線を引く。工具先端部に傷があったのか,結節部が二重になって施文されている。隆線の下に2条の平行沈線(結節)を引き,胴部に2本セットの沈線で渦巻文を描く。対応する側には垂下する単沈線を胴部中ほどまで引く。文様のわりつけをせず任意に施文する。底部は凹凸があり外へやや張り出す。著しい火熱をうけ,対応する両側は赤褐色に焼けただれ,他の両側は平滑面を保つがススがこびりついている。火熱のうけ方の差違が原因で割れた土器である。細砂を含み焼成良好。雲母は含まない。
128.浅鉢の口縁部破片。頚部でややくびれる。その裏面は稜を設けて以下の内部と区分する。口縁下に2個の穿孔がある。補修孔や装飾とは考えにくく,使用上必要な穴―例えば紐を通す,などの機能をもつのではないか。器面は内外ともきわめて平滑に調整され,粗砂と雲母を含み焼成堅緻。
129.大型甕形土器の上半部。口縁部が外反し肩が張る。口頚部に隆線を廻らせ(部分により2本)て口縁部文様帯を区画し,外反して「く」の字状を呈する部分を橋状に渡る把手をとりつける。把手は渦巻文をモチーフとしたものらしく,2種類あり4対応したものと考えられる。口唇と把手の稜に圧痕をつける。地文に縄文をつけ,渦巻文の隆線を貼る。この胴部の渦巻文は口縁部の把手に対応している。渦巻文は2本セットの隆線で連結する。隆線の片側に結節沈線を伴い,部分的になぞって磨消効果を上げる。黄褐色で火熱をうけており,粗砂と雲母を含み焼成良好。内壁は平滑に調整し部分に黒斑がある。
130.口頚部が外反し胴部が張る大型の甕形土器。大波状の口縁部が4対応し,その頂部に阿玉台式に似た耳状把手をとりつける。口縁に沿って隆線を廻らす。把手の稜と隆線の背に指圧痕を加える。地文に縄文を施すがくびれ部以下は綾杉状につけている。波頂部に対立して,くびれ部直下に2本セットの隆線を貼り胴部文様をつけている。黄褐色で細砂と大量の雲母を含み焼成良好。把手の一部が灰色に変色して火熱をうけているが,器面は荒れておらず貯蔵機能を主体としているようである。
131.大型甕形土器の上半部破片。肩部が張り頚部でくびれ口縁部が外反する。口縁部に2本の隆線を貼って背に圧痕を連続施文し,小さなS字文をつける。S字文の背をえぐって結節沈線を施す。頚部は無文。くびれ部下位に細い隆線を貼って胴部文様帯を区画する。地文に縄文を施す。縄文原体は2種類で縦転しにより綾杉状に施文している。肩部に隆線を屈曲させて「錨」を立てたような絵柄を中心とする文様帯を描く。この文様帯は4対応していたらしい。この錨マークの下縁は文様帯の凹凸に合せてゆるい波状の隆線を貼り区画線とし,以下の器面は地文だけだったようである。隆線は細く,片側に結節沈線を伴う。錨マーク部分は内部をなぞって磨消縄文に似た仕上げを施す。火熱をうけ部分に炭化的が付着している。赤褐色で砂粒と雲母を含み焼成良好。かなりつくりのよい土器である。
132.口縁部破片。口唇部を肥厚させて外側に突出させて盤状の突帯をつくり出す。渦巻文をモチーフとする粘土紐を貼付し,その両側に刻み目をつけ,口唇肩部に鋸歯状に浮線文を廻らす。鋸歯状の浮線文は大木8a式の一要素である。器面に太い縄文を施す。割れ目は粘土の継ぎ目が剥離したもの,胎土に細砂を含み焼成良好,器色は栗色を呈する。
133.大型甕形土器。口縁部と底部を欠損している。口頚部が外反し肩が張る。地文に器面全体に縄文をつけた後,貼り紐と結節沈線による施文を行う。縄文は条の太いものと細いものの2種あり,或る間隔で縦位の無文帯を経て,胴上半部には細いものだけで,胴下半部には両者を交互に縦転して施文している。胴上半部の施文の方は比較的規則的に施文している。くびれ部に2本セットの隆線を貼り口頚部と胴部文様を区別する。口頚部には結節沈線を用いた施文とS字文をモチーフとする突帯が(4対?)あったものと推定できる。胴部文様は肩部いっぱいに施文する。隆線を貼って,両端が巻いた横位のS字文を2対つける。この渦状部が器面に4対応する位置にある。S字文の両側にはそれぞれ2本セットの結節沈線を伴う。このS字文をモチーフとすると,これに附帯する補助的な余白部処理の文様帯がある。それはS字文の上下余白部に描かれるものと,隣接するS字文の中間部分に描かれるものとである。前者としては,「S」の字の斜行部分で上下に分けられた三角状の余白部に,上部には三角状の区画文を組合せ,下部には渦巻文やワラビ手状の曲線文を施文している。後者としては,部分に鋸歯文を併用して,上部は楕円状の区画文,下部には渦巻文を施文している。これらの余白処理における2本セットの結節沈線で行われ連結はするが交錯しないのが特徴である。
 黄褐色で,かなり火熱をうけ灰褐色を呈する部分もある。細砂を含み焼成良好。内壁は平滑に調整し,一部黒斑がある。
134.口頚部がゆるやかに外反する大型の深鉢。焼成良好で赤褐色,胎土に長石類の白い粗砂と若干の雲母を含む。口縁部に扁平な把手が4個対応してつけられるが,そのうち1個は口頚部ともども欠落している。頚部に隆線を廻らせて,口頚部と胴部文様帯を区画しているので,口唇部から突出した扁平な把手の部位とを合せて,上・中・下の三段の文様帯に分けられる。
 把手は,背に抉りのある隆線で渦状文をモチーフとするデコレーションをつくり出しているが,実測図に描いた隆線が「x」字状に接触し都合7個の円孔をもつ把手と,双曲線状の隆線と都合5個の円孔をもつ把手とが,それぞれ2対づつ付けられている。前者の把手は,「x」字状隆線は背に結節沈線をもち,これを中心にして全体には扁平で台形に近い装飾帯につくり出し,その裏面は隆帯の背を抉って〝逆S〟字文をモチーフとする施文をしている。後者の把手は,双曲線状の隆線の区画部にタテの粗い刻み目を施し,双曲線部の上位に結節沈線による曲線文を施し,全体には扁平で台形に近い装飾帯をつくり出す。裏面は隆帯の背を深く抉って〝逆S〟字文を描く。〝x字〟把手も〝双曲線〟把手も,それぞれ左右均斉の施文を重じている。渦状文をモチーフとするこのようなデコレーションは大木8a式の技法によるものと見られるが,〝双曲線〟や結節沈線の存在は阿玉台式の残像を強く感じさせる。把手と把手の間には口唇部に粗い刻み目がつけられている。
 中段・下段の文様帯は地文にタテ転しの縄文をつけた後に,隆線を貼り沈線を引いて施文している。地文に無文擦痕が縦走している。中段の文様帯である口頚部は,頚部に1本の隆線を廻らせ以下の器面とを区画している。把手に対応して2本セットの沈線で弧線を描き,把手間は口唇に沿って延長しそれぞれの弧線を結ぶ。下位の文様は,区画線の隆線を起点とする連弧文で,上位の弧に対応するよう2本セットの沈線で弧線を引いているが,不規則であり,部分では連弧が描けないためにワラビ手状の沈線を描いたりしている。
 下段の文様帯である胴部は,それぞれ把手の中心部に対応して垂下する単隆線を貼り器面を4単位に区画している。この垂下する隆線は頚部の横走隆線に連結するが,そのとりつき部は「Y」字状を呈し,ここにも阿玉台式の名残りが認められる。垂下する隆線は4本とも中間位置で右側に「く」字状に屈曲している。4単位の区画帯の文様はそれぞれ少しずつ違っており正確にはくり返しパターンになっていない。文様は2本セットの沈線で,垂下する隆線の「Y」字部から「く」字部の間―つまり区画帯の上半部に集約されている。ただ1つの区画帯は下半部に蛇行する単沈線を描いている。区画帯の文様は,華やかな上段の把手による文様帯に対し,下段の地味な文様帯として施工されたもので,それは把手間の空白部を補充する役目をもち,器面全体を隙間なく充填していこうとする意図に基くものだろう。この区画帯の文様は,上位に横走隆線の中間位置に単弧の沈線を引き,「Y」字状連結部に対応してワラビ手状の曲線文,「く」字状部を相互に連結して渦状文をモチーフとする曲線文を,それぞれ2本セットの沈線で描いている。
 「逆S」字文に特徴づけられる把手・弧文・ワラビ手文・無文擦痕をもつ縄文などに大木8a式の要素を色濃くもちながら,一方では〝双曲線〟状の隆線・Y字状連結部・結節沈線・口頚部が少し外反する深鉢形の器形などに阿玉台式の要素を残存させている。加曽利EⅠ式の文様要素を持つ以上,この土器は時間的にはその時期に位置づけられるであろうが,阿玉台式の要素を持つことは,まだ「EⅠ」を消化しきれない段階の土器であったことを示すと考えられる。
135.大型甕形土器の胴部破片。肩が張る器形。両側に結節沈線を伴う細い隆線を貼って文様を施す。渦巻文が主体文様で,これに垂下する隆線をとりつけ,器面を4単位に区分する。渦巻文の間をS字文をデフォルメしたワラビ手状の曲線文を連結させて充填する。ワラビ手状文の下方部分に蛇行する隆線がとりつき,これが単位文様帯の中央部分を垂下する形となる。ワラビ手状文は部分に2コブの屈曲部をもち〝子持ち〟である。隆線の背も地文に縄文を施す。原体は太いものと細いものの2種。貼紐・沈線施文に先立って地文をつけたもので,器面下位の余白部分は規則的だが,渦巻文やワラビ手状文の入組んだ文様帯の余白部分では施文方向が一定せず,後からつけ直したらしい。隆線の背に縄文がついているのはその副次的結果とも考えられる。赤褐色で,粗砂を含みかなりつくりの丁寧な土器だが,火熱をうけてもろくなっている。粘土の継ぎ目は約11cm間隔である。
136.口頚部が「く」字状に弯曲する浅鉢。焼成良好で胎土に若干の雲母を含む。器面は平滑に整形し地文はない。口縁部に相対応する4個の凸帯をつける。凸帯はゆるやかな山状で,口縁部は4個の波状口縁になり。波頂部からやや右へ寄りの部位が括れて2コブになり,その括れ部に径1.5cmほどの円孔が器壁を貫通している。口唇部は外反するが,把手はこの口唇部と頚部の屈曲部とを連結する橋状の隆帯で作り出される。凸帯で4単位に区分された口頚部には,凸帯の基部から伸び出した太い2本の隆帯で懸華文をモチーフとする施文がある。
 凸帯のうち2個は半壊して欠落,口頚部の一部も欠損している。器面の底部から胴部の一部は黒く焼け焦げ,内壁の大部分も真黒。口唇部や凸帯の内壁はかなり傷み,全体をみてかなり火熱の作用をうけていることがわかる。
137.口頚部が外反する中型の深鉢形土器。底部と胴下半の一部・把手の一部を欠損した他はほぼ完形の個体として出土した。底部の割れ目は粘土の継ぎ目が剥離したもので,器面に焼け焦げのあることを考え合わせて煮沸用として機能中に破損したものであろう。胎土に雲母を含み,器面は褐色,焼成堅緻である。地文にタテ転しの縄文をつけた後に口縁部に粘土紐を貼ってデコレーションをつけ,胴部に沈線を施したもの。粗い縄文を施し,部分的に縦の無施文帯が併走している。縄文は浅いので,かなり器面が乾きはじめてから施文したものであろう。
 頚部のくびれ部に3本の平行沈線を廻らせ口縁部と胴部の文様帯を区画する。沈線文は部分的に結節沈線となっている。
 口縁部の文様帯は,口縁に沿って断面三角の2本の平行隆線を貼ってこれを基盤にする。上位の隆線は,口唇と隆線の稜部とを平滑にならして斜めのフラット面をつくり出し,その面に2本の平行する結節沈線を廻らす。これによって口唇部が尖らされ二重口唇のように整形されている。
 口縁部に廻らせた2本の隆線の上に「S」字文をモチーフとする突帯をつける。この突帯は部分が剥落しているので配置を明確に把握しにくいが,一群はS字・円・S字文のセット,他の部位にS字文2個を連結したセットを二群とりつけたものとみられる。
 胴部文様は,3本セットの垂下する沈線(部分により結節沈線)で2:1:1にタテ割りされるが,S字・円・S字文のセットになるデコレーションの部分は垂下するタテ割り沈線がなく,他の部位はいずれもS字文セットの左端に対応して沈線をひき出している。これらの沈線は胴部中位でワラビ手状に屈曲しながら横位に連鎖されるが,渦状文をモチーフとしたものであろうが対称性がない。沈線はヘラ描きで3本セットをたてまえとしているが,部分により4本になったところもあり,その間隔も一定せず,結節を部分だけに留めるなどの点と見合せて,大雑把な施文であるように見うけられる。
 この土器は器形の上でもキャリパーにならず口頚部のみが外反し胴部が張り出した特有器形を呈し,S字文をモチーフとし3本セットの渦状文をモチーフとした沈線文をもつ点などから大木8a式に比定できる。部分的に見られる結節沈線,特有の器形などは阿玉台式の残像が看取される。
138.口頚部が外反する深鉢形土器。口唇内側に貼り紐を施して庇のような張り出しをつくる。口頚部に隆線をはって1条の文様帯を区画する。隆線の背をえぐる。区画部にS字文の突帯をとりつける。S字文は4対応するもので,背をえぐっている。器面に縄文を施すが他の施文はない。縄文は短い原体を等間隔に縦回転したもので,磨消帯に見える条が併列している。器面は黄褐色で,著しい火熱をうけて部分により灰色を呈し器壁は粗くもろい。細砂と多量の雲母を含む。下辺の割れ目は継ぎ目が剥離したものである。
139.口頚部が外反する深鉢形土器。口唇部を肥厚させて平担化しえぐりを入れる。口頚部に2本の隆線を貼って文様帯をつくり出す。隆線の背に指圧痕を加える。この文様帯に横のS字文と縦のS字文をそれぞれ対応させ,都合4つの突帯が対応する。S字文は背を広くしてえぐりを入れ,その谷間部分にさらに一本の粘土紐を貼って立体的な効果を上げている。器面はかなり凹凸がある。全面に縄文を施す外は胴部文様はない。縄文の間に縦に無文部が等間隔で併列する。指の磨消痕ではなく,短い原体を等間隔で縦回転した結果生じたものかも知れない。火熱をうけ黄褐色,部分に灰褐色を呈し,器面が粗い。砂粗と雲母を含み焼成良好。内壁は調整してはいるが,不充分である。下方の割れ目は粘土の継ぎ目が剥離したもの。
140.大型キャリパー状深鉢の胴下半部で,上半の外反する部位の継ぎ目が剥落している。赤褐色を呈し,円筒状の器形の表面は焼け焦げて無数のヒビ割れが走っている。胎土に粗砂と若干の雲母を含み,焼成はよい。上縁の剥落面に胴下半部の文様帯を区画するため沈線を廻らせ,その部分が割れ剥がれたもの。器面全体に地文の縄文を施した後,ほぼ対応する位置に,剥落した上縁に廻らせた沈線文を基点として4単位の渦巻文をモチーフとする沈線文をつけた。3つは平行沈線で「U」字状の文様を引き,その一部と相互の間を波状沈線で結んでいる。他の一つは渦状文の尾が垂下してワラビ手状の文様帯を形成する。この4単位の沈線文はヘラ状工具で,縄文施文直後の器面が軟い時期に一気に描いたもので,刻みこんだ線の両肩に粘土のめくれがあることが観察される。3単位の「U」字状文様帯と1単位の渦状ワラビ手状文様帯とは,それぞれ,外反する胴上半部の文様帯のモチーフと対応するものと考えられる。この種の渦状文の文様構成は,半截竹管を用いる場合とヘラ状工具を用いる場合とがあり,県下の加曽利EⅠ式にあっては,前者の方がより多く見うけられる。円筒状を呈する現器形はかなりゆがみがあり,土器全体が一気につくられたため,上半部の重みがかかって起ったものではないかと想像される。
141.超大型の甕形土器。肩が張り口縁部が外反する。小波状の口縁で4対応とみられる。器面全体に地文の縄文を施す。原体は太いもの細いもの2様ありこれを交互に縦転しして綾杉状に施文する。この後,背の尖った隆線を貼って文様帯を構成する。波頂部を中心とする2本セットの隆線で同心円状の文様帯を描き,その内部に凸起部(何か不明)をとりつける。これに対応して渦巻文をとりつけ,その延長部を胴部に垂下させる。この渦巻文に連結して左右に隆線を延長し,鋸歯文を組合せた渦巻文を施す。胴下半部にも垂下する隆線にとりつけた蛇行する隆線を貼っているが,規則的なものかどうか不明。全体的にはかなり自由な貼紐施文であるように見うけられる。隆線のつけ根や間を,部分的になぞって〝磨消〟的な仕上げをしているところもあるが,一切沈線を伴わず,隆線がクロスしないよう施文している。部分に黒斑があるが貯蔵用か。細砂と雲母を含み焼成良好。
142.やや肩が張る大型深鉢形土器。無文。砂粒を含み内壁は赤褐色でもろい。口唇部は薄く若干外反する。器面を平滑に調整し,口頚部はナデに用いた工具(皮?)の擦痕がみえ,水をつけながら丁寧に施工しているが,以下の器面は粗く,砂粒の移動痕が見える。火熱を著しくうけ,外壁は底部近くの赤褐色部分を除けば黒褐色に焼け焦げている。
143.大型キャリパー状深鉢の胴下半部。厚手で胴が張った円筒部。器面全体に粗大な縄文を施したのみで他の文様はない。部分より粗密はあるが,太く粗い撚りの縄文原体を一様に上方から縦転しして施文したもの。キャリパー状屈曲する部位は殆んど欠落し,底部とその周辺も欠落しているが,屈曲する頚部が一部残っている。これをみると,胴下半部を区画する沈線はなく,頚部にも文様はつけてなかったものと考えられる。胎土に粗砂を含み,焼成堅緻。器面に二次的な焼け焦げがみられる。頑丈で実用本位に使用された土器であったと考えられる。
144.巨大な土器の胴部破片。胴下半部でややすぼみ,胴上半部が開き,肩の張った甕形土器。肩部の内弯する部分までは確認できるが口頚部はわからない。おそらく頚部でくびれ口縁部が外反するものと思われる。破片は胴部の4分の1程度で相当大きな土器である。胎土に多量の雲母を含み黄褐色,焼成堅緻である。
 地文に羽状縄文をタテ転しして綾杉状の縄文を施文。当地方では珍らしい技法である。施文後に〝背を尖らせた細い隆線〟を貼って文様をつくり出す。
 肩部に一本の隆線を廻らせ,Y字状に交鎖する部位から単隆線が垂下する。この隆線で胴部を何単位か,多分4単位くらいに区画したらしい。Y字状クロス部にジグザグの隆線が貼付され,その2つの頂部から上方へ隆線が伸び出しているが文様構成はわからない。大木8a式に比定される土器だが,Y字状クロスなど阿玉台式に似た要素もある。
145.大型土器の口縁部で立体的な把手がついている。胎土に粗砂と雲母を含み,焼成はわるく器面がもろい。この破片は「く」字状に屈曲する口縁部で,大形の甕形か深鉢かであろう。口縁部に扁平な盤状の突帯をとりつけ,その背(土器の表側)と腹(裏側)とに隆線を貼って文様帯を構成する。腹面は,S字文をモチーフとした文様帯を周縁に隆線を廻らせてのくり出しその隆線に沿って結節沈線をひき,その内側は低平である。背は隆線を周縁に貼って渦状文をモチーフとする文様帯をつくり出すが,この頂部から口頚部屈曲部に橋状に渦巻文の隆線をとりつける。この把手の稜にはヘラ押しの刻み目をつけ,隆線に沿って結節沈線をつけ,全体的に立体的で複雑な文様構成になっている。この把手のつけ根には背の尖った細い屈曲した隆線を貼る。把手の渦巻文が橋状にとりつけられた器面――つまり「く」字状に外反した下位の部分には地文に縄文をつけ,そこに2本の結節沈線をジグザグに引いている。
 この土器片は渦巻文をモチーフとした把手と器形・胎土・焼成からみて加曽利EⅠ式と考えられるが,把手の基本的な構成要素が扁平で,隆線の背に刻み目をもち,結節沈線を随所に駆使するなど阿玉台式の技法を色濃く残すものである。総じて加曽利EⅠ式の最も古いステージに位置づけられると考えられるが,時期的には阿玉台式に近接するもので〝接触様式〟の色彩をよくとどめるものである。
146.大型土器の大波状口縁の波頂部片。立体的に隆起線がとりつけられデフォルメされているが,阿玉台式のキャリーパー状器形にとりつけられる〝魚尾〟状の波頂部と基本的に同じものであろう。黄褐色で細砂と多量の雲母を含み,器面は念入りに調整され,焼成は堅緻,精製土器である。125.と施文・焼成・器形などの特徴が酷似していて,同じモデルから作られた可能性もある。
 この土器片は背が外へふくらんだ波頂部である。背面の最頂部に三角状の突帯を左・小さい円状の突帯を右にとりつけ,両方とも内側を盆状にくぼめて周囲に刻み目文を廻らす・この2つの突帯のつけ根から両側に外傾し平滑に調整された口唇部がつくり出され,その肥厚した口唇と頂部の突帯とで,波状部の文様帯を区画している。この文様帯は,頂部に連結して太い隆線を渦状に屈曲させて貼りつけ,この隆線により大小の「三日月」状の区画帯をつくり出す。区画をした渦状の隆線は背とそのつけ根の両側にヘラ押しの連続刻み目文を伴うが,区画帯では更にその内側に連続刻み目文を伴い,二重のヘラ押し文によって装飾される。こうして区画された三日月帯にはジグザグの沈線を引いて,最終的に空間を充填装飾している。
 腹部(器面内側)は口唇が肥厚して段差をもち平滑に器面調整されている。器面に散りばめたように雲母が燦然と輝いている。
 この土器は阿玉台式の新しい段階に位置づけられるものだが,頂部の三角・円状の突帯や器面の背に刻み目をもつた隆線・ジグザグ文を伴った三日月状区画帯など勝坂式における施文の特色を色濃くもっている。従って勝坂式の影響をうけた末期的な阿玉台式であると判断される。当地方では類例の少ない阿玉台式である。
147.大型土器の口縁部にとりつけられたマッシーヴな把手である。暗紫色を呈し,多量の雲母を含み焼成堅緻である。
 背面は頂部左側に渦巻文の・右側に三角状の突帯をつくり出し,基部に円孔が腹面(器面裏側)へ通じている。この把手の稜部には刻み目文を施し,2つの突帯から口縁部へつづくそれぞれの側面には三角鋳状の抉りがある。把手の稜の一部及び口縁部にかけては,土器本体に施文したと同じものと思われる縄文を施す。
 腹面は,概形は三角で,頂部の突帯から把手の基部へ通じる稜線で二分され,基部には円孔2対が背面の円孔と通じている。稜には刻み目を加え,稜に沿って単沈線をひく。背面と異って,腹面の余白部分には施文をせず,器面を平滑に調整している。
 この土器は,稜線の刻み目・三角鋳状の抉りを伴う,渦巻文をモチーフとしたマッシーヴな把手に特徴づけられるもので,一見して勝坂式の要素を強くもっている。時期的には阿玉台式の新しいステージにおかれるものと判断されるが,胎土・色調などは阿玉台式の古い段階の特色を継いでいる。器面に,地文として縄文を施したことからみても阿玉台式の新しい時期に位置づけて大過ないものであろうが,このような〝勝坂がかった〟把手は当地方の阿玉台式にはきわめて珍しい。
148.大型甕形土器の口縁部破片。赤褐色で細砂を含み焼成良好。波状口縁の頂部に逆S字の把手をつけたものだが,背面(器面表側)と腹面とで施文が対称的に異る。
 背面はメガネ状につくり出し,稜部と縁部に結節沈線をひく。メガネ部分の連結部位から棒状の突帯が突出し,その頂部に結節沈線を短くひく。この突出部に対応して,下位部分に三角の山状偏平な突出部がありその稜部に結節沈線をひく。要するにこの把手は,人面を連想させる構成である。メガネ状の突帯は眼,中央部の棒状の突帯は鼻,下位の山状突出部は口―――にみえる。
 薄手で,口唇部にそって,〝口〟部に連続して断面三角の隆線をひく。器面には2本の平行する結節沈線によって区画帯をつくり出し,その内部に細い縄文をつける。縄文にはタテの無文帯の併列がみえる。
 〝人面〟把手のウラ側つまり腹部は逆S字文で,この隆線は幅広で平担に稜をつくり出し,2本の平行する結節沈線をひく。
 この土器は,逆S字文,区画帯内の縄文施文などの面から大木8a式に比定されるが,結節沈線を駆使するなど阿玉台式の技法を色濃く残す土器である。〝人面〟を想起させる把手はマジカルで特異な事例で,当地方の資料でも稀有である。