まず浄土信仰が広まり、浄土宗・一向宗・時宗などが台頭し、ついで禅宗の臨済宗、曹洞宗が起り、また日蓮宗なども出て、各派それぞれはなばなしく宗教運動を展開し、仏教は庶民の中に次第に浸透していった。
那須地方とて、こうした社会情勢の進運に無縁ではなかった。中世の社会不安は民間の信仰を盛んにし、武将たちも打ち続く戦乱の中にあっては、戦勝を祈願しあるいは戦没者の霊を弔い、支配者としては民心の安定、世情の平穏を希う心から、宗教活動も盛んになり、神社・寺院の建立が行なわれていった。
因に寺院の建立の状況を見てみると、その大部分が鎌倉時代から室町時代にかけて行なわれている。これを年代順に並べると次のようである。
鎌倉時代
建立年代 寺院名 宗派
一一八〇 大正院(廃) 修験
一一八六 光明寺(廃) 修験
一二〇一 蔵六寺(後に金秀寺)臨済、後に曹洞宗
一二五七 光厳寺 臨済宗
一二八三 雲巌寺 臨済宗
一二九〇 浄居寺 臨済宗
不詳 新善光寺(廃) 時宗(衆)
不詳 帰一寺(廃) 真言宗
初期 円応寺(廃) (尼寺)
不詳 長泉寺(廃) 天台宗
一一八〇 大正院(廃) 修験
一一八六 光明寺(廃) 修験
一二〇一 蔵六寺(後に金秀寺)臨済、後に曹洞宗
一二五七 光厳寺 臨済宗
一二八三 雲巌寺 臨済宗
一二九〇 浄居寺 臨済宗
不詳 新善光寺(廃) 時宗(衆)
不詳 帰一寺(廃) 真言宗
初期 円応寺(廃) (尼寺)
不詳 長泉寺(廃) 天台宗
南北朝時代
一三五五 蓮徳寺(廃) 真言宗
一三七〇 安養院 真言宗
一三七〇 安養院 真言宗
室町時代
一四〇四 大雄寺 臨済、後に曹洞宗
一四三〇 玄寿院 真言宗
一五三三 明王寺 真言宗
一五六五 常念寺 浄土宗
不詳 竜念寺 浄土真宗
一四三〇 玄寿院 真言宗
一五三三 明王寺 真言宗
一五六五 常念寺 浄土宗
不詳 竜念寺 浄土真宗
それ以後
一六一〇 長渓寺(廃) 曹洞宗
一六六〇 源昌寺 曹洞宗
一六六〇 源昌寺 曹洞宗
江戸時代初期 長松院(廃) 浄土宗
一八六九 西教寺 浄土真宗
なお、地蔵堂、観音堂、阿弥陀堂などの仏堂の建立をみると、古いものでは平安時代初期、大同年間と伝えられるのもあるが、やはり多くは南北朝時代から、室町時代にかけての建立である。中世は宗教の時代であるといわれているが、草深い黒羽地方においても確にそうであったことが頷ける。当時のひとびとは極めて宗教的であり、そして敬虔であったように思われるのである。
中世におけるこの地方の文化は、このような宗教的基盤の上に花咲いたといってよいであろう。