二 針供養

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お針子の一年中での楽しみは、針供養であった。針供養は婦人に尽くす針の供養を目的とする御針屋での重要な行事の一つであった。その期日は地方によって一定しないが、旧一月廿五日、二月八日に行われる。当日は、裁縫を休み、折れ針を集めて豆腐に刺し、針道具御馳走を供えて供養し、天神社、淡島社、氏神等を参詣した。そして一年間の労をいたわり、翌年の無事裁縫の上達を祈った。のち豆腐は附近の川に流し、かつ折れ針で鳥居を作り、神社に奉納し謹慎の意を表した。なおこの日はお針子たちが、赤飯、煮しめ、その他ご馳走をつくり、余興として、かくし芸などを演じた。厳格な躾をうけた武家の娘は、余興などせず、主に町人、在家の娘が歌い踊った。また師匠をもてなした後、全員で芝居見物をしたところもあった。針供養は御針屋の重要な行事であるとともにお針子の唯一の娯楽でもあった。