一 大関家家訓

485 ~ 486
藩主大関増業が創垂可継を著作するに当たり、同家に伝わる先代の遺訓に基き集大成したものの中からいくつかを挙げてみる。
一、親族近縁の家中へ、片時も無沙汰あるべからず。実意を失わずして、傍輩衆へも信義をもって交るべし。天下の人信義なくては万端たち難し。

一、何事に不寄(よらず)家々の作法あるものなれども、非常の事又替る義は、親類知者の衆へ相談可被致(いたさるべき)事

一、勤向の事に付ては、仮初(かりそめ)にも身構致し、本意を失う物なり、能能(よくよく)ご奉公の道、第一に可被勤(つとめらるべき)事。

一、兄弟衆への合力筋も、其の程々には遣わさるべく、近親親族の中、悪しくなる事は、勝手向きの事などに替えられぬ事なり。兎角睦しきが、万事相互の力ともなり、非常の節などは殊更互の助け合いにもなり、家の厚きは忠孝の道にて候えば一家和睦第一の事なり。

一、家の主たる者は、第一学問なくては、古道に暗く、新知を発明する事なし。古今の歴史を見て勧善懲悪(ぜんをすすめあくをこらす)の工夫あるべし。

一、武業の事は勿論、武家に生まれては、片時も捨て置くべきにあらねば、弓馬剣槍の武学を常とし、軍学を学びて戦場の勝負をひそかに弁(わきま)え、鉄砲居合(いあい)柔術の類、皆其の羽翼に学びて嗜(たしな)まざるは、諸士の武業の勝劣を見るに、目なきが如く、又武術を引きたてるに不行届きものなり。家中風俗皆主君の好む所に寄り、自然に流行すればなり。

一、家老は其の家の大老なれば重し。親しみ其の人の知不知に寄らず、賢愚にかかわらず、尊信してつかうべし。其れ以下の役人を愛愍しつかうべし。又諸士をば親しみを第一とし、馴れなれしき事、これ無き様に、親疎の二つを考えつかうべきなり。小人は親しめば驕(おご)り蔑如(ないがしろ)の心生ず。遠ざくれば恐るべからざるに恐れて、下情閉塞す。