一、親族近縁の家中へ、片時も無沙汰あるべからず。実意を失わずして、傍輩衆へも信義をもって交るべし。天下の人信義なくては万端たち難し。
一、何事に不寄(よらず)家々の作法あるものなれども、非常の事又替る義は、親類知者の衆へ相談可被致(いたさるべき)事
一、勤向の事に付ては、仮初(かりそめ)にも身構致し、本意を失う物なり、能能(よくよく)ご奉公の道、第一に可被勤(つとめらるべき)事。
一、兄弟衆への合力筋も、其の程々には遣わさるべく、近親親族の中、悪しくなる事は、勝手向きの事などに替えられぬ事なり。兎角睦しきが、万事相互の力ともなり、非常の節などは殊更互の助け合いにもなり、家の厚きは忠孝の道にて候えば一家和睦第一の事なり。
一、家の主たる者は、第一学問なくては、古道に暗く、新知を発明する事なし。古今の歴史を見て勧善懲悪(ぜんをすすめあくをこらす)の工夫あるべし。
一、武業の事は勿論、武家に生まれては、片時も捨て置くべきにあらねば、弓馬剣槍の武学を常とし、軍学を学びて戦場の勝負をひそかに弁(わきま)え、鉄砲居合(いあい)柔術の類、皆其の羽翼に学びて嗜(たしな)まざるは、諸士の武業の勝劣を見るに、目なきが如く、又武術を引きたてるに不行届きものなり。家中風俗皆主君の好む所に寄り、自然に流行すればなり。
一、家老は其の家の大老なれば重し。親しみ其の人の知不知に寄らず、賢愚にかかわらず、尊信してつかうべし。其れ以下の役人を愛愍しつかうべし。又諸士をば親しみを第一とし、馴れなれしき事、これ無き様に、親疎の二つを考えつかうべきなり。小人は親しめば驕(おご)り蔑如(ないがしろ)の心生ず。遠ざくれば恐るべからざるに恐れて、下情閉塞す。