源氏は八幡神を氏神と仰ぎ崇敬した。源氏の配下に属した那須氏は八幡宮を武芸の神として崇信し、温泉神社を氏神と仰ぎ、領内の村々に勧請し産土神(鎮守)としても崇敬したのであった。那須氏の没落後、かつて那須氏の傘下にあった大関氏はその精神を引き継ぎ、八幡宮を武の守神として、武運長久を祈祷し、那須氏ゆかりの温泉神社を鎮守の神として領内の安穏を祈願した。そうして更に祖先の霊を鎮国神社に氏神として祀り、厚く崇敬したのである。
『創垂可継』の「三社祭式」一巻には、
「鎮国社神霊勧請の作法、並びに一歳の祭式を定むる所なり。又、金丸邑八幡宮の社祭式、大宮温泉神社の年中行事祭式を記し置く所なり。三社と号し置くは、鎮国社、八幡宮、温泉社の三社なり。」
と、記してある。また同書「年中行事」の一月一日は、
「一、八幡館御祖神鎮国社へ昼後御参詣の事。」
と、藩主の参詣を述べている。さらに藩主自らの神社参詣の模様を、同書によって見ることにする。
正月十六日の金丸八幡参詣と、三月十九日の大宮湯泉神社参詣を次に掲げる。
正月十六日
但し御上下御着用の事もこれ有り、御定式の御烏帽子(えぼし)御大紋御着用の事
一、御大紋御着用、金丸八幡へ御社参等、御跡乗御用人罷り出で候事。
但し御上下御着用の事もこれ有り、御定式の御烏帽子(えぼし)御大紋御着用の事
大紋(だいもん)は、布製の直垂(ひたゝれ)にて、家の紋を大きく付けるもの、上の紋は五つ所、下は長袴にて、腰板は紋が無い。諸大名の礼服で、風折(かざおり)烏帽子に小さき刀。
風折烏帽子は立烏帽子の頂(いたゞき)を筋違(すじちがい)に折り伏せたもの。
跡乗(あとのり)行列の真先に乗り行く馬を先乗(さきのり)と云い、最後に乗り行くを後乗(あとのり)と言う。跡は後の借字。
風折烏帽子は立烏帽子の頂(いたゞき)を筋違(すじちがい)に折り伏せたもの。
跡乗(あとのり)行列の真先に乗り行く馬を先乗(さきのり)と云い、最後に乗り行くを後乗(あとのり)と言う。跡は後の借字。
一、御社参の節、神主中門の内へ御迎え(殿様を)に罷り出で、御用人披露。御先番の御側(おそばつき役)、拝殿の階の上に相控え、神主御案内申し、神前(奥様)へ御通り、神前の階上にて御拝礼、御刀取の御側の者ども、階の下に相控え、御用人は廊下に相控え、御神拝後、神酒、供物御頂戴相済み、階の下にて神主へ御流(おながれ)下され、御帰りの事。
お流(殿様の盃の酒の余滴を銚子に移し、更に酒を加えて増し、それをお伴の者に飲ませること)。
但し、神主宅へお帰りがけ、御入りの節、神前にて御盃下されこれ無き事。
一、御帰りの節、神主御迎えに出で候所まで御送り罷り出る。
三月十九日
一、大宮湯泉(両郷村桜田鎮座)御祭礼に付き、御社参の事。
御祭礼の節、御式御着用は、御熨斗目(のしめ)御半上下(はんがみしも)御供立(ともだち)八人、御添え継ぎ御用人御跡乗(あとのり)。
熨斗目はのしめ小袖で、絹織物で造り賀服に着用、経(たて)は練り糸、緯(よこ)は生糸。
半上下(はんがみしも)は武家の礼服で、肩衣(かたきぬ)上下の上(かみ)の下に袴をつけるのであるが、其の袴のたけは、腰より足のくるぶし迄で、今の袴であるから、長袴に対して半ばの意味、上下共に染色。
御神拝、御神酒、供物御頂戴、神主へお流れ下されはこれ無し。それより御桟敷(さんじき、見物場に、物を観る席として、かりに造り設けた建て物)へ入らせられ、御前に置いた御提げ重(重箱)御酒を出し、御家老、御用人、御医師に下し置かれ。神主より御提げ重差し上げ、金丸神主(金丸八幡の)よりも、一種差し上げ両人(大宮と金丸八幡)ともに御目見え申し上げ御用人披露。今日一役壱人ずつ相勤め候面々一統、御桟敷にて赤飯下され候事。
御先番(お側頭壱人、御側両人)賄方(まかないかた)、徒目付壱人、米役壱人前広(以前に)より相詰め候事。掃除方として作事奉行前より相詰め。
作事奉行へ御桟敷にて赤飯下され候段、御家老役より、別段沙汰に及び候事。
馬役馬医へ同断下され、御用人より別段申し渡し候事。
今日御桟敷向き(方面の)取り賄の儀は、台所役壱人相詰めはからい候事。
但し、今日御直参これ有る節は、御参府前(殿様にお上り)御社参御名代にて相済む。尤も、年始御社参今日兼ねさせられ候事。
熨斗目はのしめ小袖で、絹織物で造り賀服に着用、経(たて)は練り糸、緯(よこ)は生糸。
半上下(はんがみしも)は武家の礼服で、肩衣(かたきぬ)上下の上(かみ)の下に袴をつけるのであるが、其の袴のたけは、腰より足のくるぶし迄で、今の袴であるから、長袴に対して半ばの意味、上下共に染色。
御神拝、御神酒、供物御頂戴、神主へお流れ下されはこれ無し。それより御桟敷(さんじき、見物場に、物を観る席として、かりに造り設けた建て物)へ入らせられ、御前に置いた御提げ重(重箱)御酒を出し、御家老、御用人、御医師に下し置かれ。神主より御提げ重差し上げ、金丸神主(金丸八幡の)よりも、一種差し上げ両人(大宮と金丸八幡)ともに御目見え申し上げ御用人披露。今日一役壱人ずつ相勤め候面々一統、御桟敷にて赤飯下され候事。
御先番(お側頭壱人、御側両人)賄方(まかないかた)、徒目付壱人、米役壱人前広(以前に)より相詰め候事。掃除方として作事奉行前より相詰め。
作事奉行へ御桟敷にて赤飯下され候段、御家老役より、別段沙汰に及び候事。
馬役馬医へ同断下され、御用人より別段申し渡し候事。
今日御桟敷向き(方面の)取り賄の儀は、台所役壱人相詰めはからい候事。
但し、今日御直参これ有る節は、御参府前(殿様にお上り)御社参御名代にて相済む。尤も、年始御社参今日兼ねさせられ候事。
(注)本誌「近世」(五)民俗 二 年中行事「2、温泉神社と鎮国社の年中行事」参照。