1 農耕儀礼と結びついた年中行事

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人々は生産と生活に結びついた自然への敬虔(けいけん)な念をいだき、神への祈りを捧(ささ)げ、共通の歳時習俗(さいじしゅうぞく)を保って、これを伝えてきた。文化の拡充(かくじゅう)である。
 黒羽地方は稲作を中心とした農耕儀礼(のうこうぎれい)が、その核をなしていた。この晴れの日は、神事(かみごと)と称し、神と一体感をもちながら、仕事も休み、農村社会の慰安日とし、そこからいきがいを生んだ。
 しかしこれらの年中行事も、高度経済成長に伴ない、職業が多様化(たようか)し、生活合理化運動も盛んとなり、大分(だいぶ)簡素化されてきた。人々の生活や考え方が急激に変ってきたからであろう。
 なおこれらの年中行事は主に旧暦(きゅうれき)によって行なわれてきた。次に明治(一八六七~)から昭和十年(一九三五)代まで、一般的に実施されてきた主なものを挙げてみよう。なかには残しておきたいと思うものがあるが、これは単なる郷愁(きょうしゅう)と言い切ることができない。
(1)年中行事表(抄)
 (月、日)         (行事など)
 一月一日 元日(若水(わかみず)汲み、鏡餅〈おかがみ〉屠蘇(とそ))初詣(はつもうで)、初日の出、四方拝

   二日 事(こと)初め、初荷、初謡、書初め、馬の乗り初め、初夢

   三日 福はき

   四日 仕事初め、藁ぶち(わらぶち)初め、棚(たな)さがし

   六日 山入(やまい)り(餅)

   七日 七日正月(七草)、〈七草粥(かゆ)(雑炊(ぞうすい))〉七草爪(ななくさつめ)

  十一日 鍬(くわ)入り(農初め)、蔵(くら)開き、鏡開き

  十三日 花市、虚空蔵(こくぞう)祭り

  十四日 鳥ごや(鳥追い、どんどやき)、とんぼだんご〈水木にまゆ王〉、〈祝い棒、若餅〉)

  十五日 小正月(小豆かゆ)、成り木責め

  十六日 大斉日(だいさいじつ)(地獄の釜のふたも休むという)、やぶ入り、井戸払い

  十八日 十八粥(かゆ)(小豆かゆ)

  二十日 二十日正月、恵比須講(えびすこう)(商(あきない)のエビスコ)〈ふな・枡(ます)に銭〉、はよぶち

 二十五日 天神講(てんじんこう)

 二十八日 初不動(はつふどう)

  三十日 送り正月

 二月上旬 節分(せつぶん)、豆まき(やっかがし)、としとり、厄落し(やくおとし)

      初午(はつうま)、稲荷詣(いなりもうで)(五色旗〈奉納正一位稲荷大明神〉しもつかり)

   八日 針供養(くよう)(笊(ざる)目篭、ニンニク豆腐(とうふ))

   十日 田の神おろし(臼三回・生(なま)松葉)

  十五日 涅槃会(ねはんえ)

  十九日 十九夜さま

 三月三日 三月節句(桃の節句)、ひな祭り、(草餅)

  十五日 春のこと祭り(麦(むぎ)こと)

   下旬 春分(しゅんぶん)、彼岸会(ひがんえ)、墓参(ぼさん)

 四月八日 お釈迦(しゃか)さま(花祭り)、(甘茶、藤〈屋根〉)小手谷(御亭)(こてや)祭り

   九日 八溝(やみぞ)祭り(嵐除(あらしよけ))

   十日 百万遍念仏(ひゃくまんべんねんぶつ)

  十五日 虚空蔵祭り、大宮祭り

  十七日 八溝(やみぞ)例大祭(ボンデン)


八溝のおまつり(ボンデン)

 五月上旬 八十八夜、水口(みなくち)祝い

   五日 五月節句(せっく)(菖蒲(しょうぶ)の節句、端午(たんご)の節句)鯉のぼり、兜(かぶと)飾り、武者のぼり、柏餅(かしわもち)、菖蒲(しょうぶ)と蓬(よもぎ)(屋根)、菖蒲湯

 六月一日 むけのついたち、(小麦(たんさん)まんじゅう)

   七日 一の矢天王

      さなぶり(田植終了期)

   十日 百万遍念仏

   中旬 虫送り

  三十日 大抜(おおはら)い(夏越祭り)、茅の輪(ちのわ)くぐり、(かやぬき、人形(ひとがた)流し)

 七月一日 かまのふた(小麦まんじゅう、焼き餅)

   七日 七夕・棚機の意、(星祭り)、(笹竹に短冊(たんざく))どんどやき

 七~八日 薬師祭り

   九日 万蔵(まんぞう)山祭り

 十三~  お盆(盂蘭(うら)盆会)、(盆灯、盆棚)十三日迎い盆(餅)、

  十六日 十六日送り盆・大斉日・やぶ入り、盆踊り

  二十日 二十日盆、天王祭り

 二十四日 高岩祭り

 二十八日 不動祭り

 八月一日 八朔(はっさく)

  十五日 十五夜、月見、(だんごと糸枠にすすき)ぼうじぼ(子どもらがいもがら等に縄を巻いた豊年棒で庭をたたく)

 九月上旬 二百十日、天祭(てんさい)(風祭り)

   九日 重陽の節句(ちょうようのせっく)(菊祭り)、草の刈りあげ

  十三日 十三夜、後(あと)の月見、(だんご、すすき、大根)

  十五日 金丸八幡祭り(しょうが)

   下旬 秋分(しゅうぶん)、彼岸会(ひがんえ)、墓参

 十月十日 こと(十夜)、大根のとしとり(菊花と餅)

      つぼ餅(はきだめ餅・ふくで)〈十月中〉

  十三日 しょうこん社祭り(騎馬打毬・相撲)

  十七日 山の神さま

  二十日 恵比須講(農のエビスコ)(枡(ます)に銭・ふな)

 二十三日 二十三夜講(こう)

十一月六日 地神さま、八溝(やみぞ)祭り

  十三日 光丸山(こうまるさん)祭り(五家宝、けんちん汁)

  十五日 七五三、宮(みや)参り、あぶらしめ(けんちん)

十二月一日 川ぴたり(かぴたり)(あんころもち)

 四~十日 当歳駒(とうさいこま)せり市

   八日 事(こと)始め(笊目篭(ざるめかご)・ニンニク豆腐・思案餅(しあんもち))

  十三日 すすはき

   下旬 冬至(とうじ)(南瓜(かぼちゃ)・茄子(なす)と菊殼・柚湯(ゆずゆ))お松迎え(門松(かどまつ))・お飾り(注連縄(しめなわ))

 二十八日 餅搗(もちつ)き

 三十一日 大晦日(おおみそか)、年越し(としこし)、大祓い(おおはらい)、厄落し(やくおとし)、除夜(じょや)の鐘(年越そば)

 次に参考のため大正十四年(一九二五)ころの須賀川村内の農休日を誌す。(旧暦)〈村誌による〉

一月 山入り、鍬(くわ)入り
二月 事初め、初午、田の神下し、釈迦涅槃会(しゃかねはんえ)
三月 節句、金比羅(こんぴら)祭、愛宕(あたご)祭
四月 お釈迦(しゃか)さま、天念仏、八溝嶺(やみぞみね)祭、種おろし休

五月 節句、早苗振り(さなぶり)
六月 剥けの朔(むけのついたち)、百万遍(べん)、一の天王祭(さい)、祇園祭(ぎおんまつり)

七月 釜の蓋(かまのふた)、七夕(たなばた)、盂(蘭)盆(うらぼん)

八月 八朔(さく)、風祭り、二百十日、二百二十日、彼岸
九月 節句、村社祭
十月 山の神祭、恵比須講
十一月 一のや天王祭、皆納念仏
十二月 川浸し餅休み、事仕舞(ことじまい)
(『ふるさと雑記』より)