明治二十三年十月三十日、天皇より勅語として下賜され文部大臣は直ちに謄本をつくり全国に頒布し、大臣訓辞・奉承の感想・式典の際の奉読方法・勅語謹解をつけて各地方長官に通達した。教育勅語の内容は、まずわが国の教育の源は建国以来の天皇の深い徳と臣民一体となって忠孝を尽くしてきた国体そのものの中にあること、次に「父母に孝に」をはじめとする臣民の守るべき徳目を列挙していること、そしてこれらを実践することは天皇のよき臣民となること、さらにそれらの徳目は古今東西を通じて正しい道であることが述べられている。思想は儒教道徳の思想的流れを基調とし近代国家観に与えられ、両者の結合の上に成立している。そしてそれは、天皇と国体によって教育を権威づけ、天皇中心の国民思想、国民教育の結集として実を結んだものである。学校では尋常科は勅語の暗誦が課せられ、高等科では勅語の暗記が課せられた。また学校には天皇・皇后両陛下の御真影が配布され、奉安殿が作られ、また各教室の正面には御真影の代りに二重橋の写真が掲げられ、「陛下の赤子」として常に陛下の膝下にいるような心構えで勉強するようにさとされた。そして勅語奉読と御真影拝戴とは、その後の学校の式典および祝祭日には必ず挙行される行事となり太平洋戦争終結の日まで続いた。次に両郷中央小学校(明治二十四年元旦拝賀式)の、記録を掲げる。
「本日ハ新年拝賀式併セテ勅語奉読式ノ大典ヲ行ウ 今左ニ其ノ状況ヲ記ス 本日ハ天気清朗ニシテ旭日東天ニ輝キ殊ニ鮮明ナリ 校前ニハ大緑門ヲ設ケ国旗ヲ交叉シ玄関ノ上ニ松竹ノ葉及ビ梅花黒豆ヲ以テ勅語奉読式ノ五字ヲ拵ヘ美麗ナル額を掲ケタリ又式場ニハ聖天子ノ肖像ヲ奉掲シ傍貴衆両議院議員ノ肖像ヲ掲ケ左右ノ壁ニハ古今ノ賢人烈婦孝子ノ掛図ヲ並ベ貼レリ午前九時ノ鐘声ト共ニ二百十六人の生徒坐ニ着キ又参列者ハ村長及役場吏員及大字総代村会議員其他有志者十数名着席ノ撃析ニテ各自其席ニ着ク佐藤訓導立テ恭ク勅語ヲ奉読シ次ニ渡辺保勅語奉講シ次ニ中山悦喜芦川文部大臣ノ訓辞ヲ奉読シ次ニ渡辺喜一郎訓示ノ奉講ヲナシ終ルヤ直ニ本校教員総代高梨末之助立テ本日ノ祝詞併セテ勅語奉答ノ文ヲ朗読セリ其次ニ至リ村長大塚英吾君有益ナル演説ヲナス満場ノ者皆感服ノ相アリ
次ニ生徒総代ノ答辞及ビ各有志者ノ祝詞交々朗読セリ 其祝詞朗読終ルヤ佐藤訓導立テ式全ク済シタルコトヲ告ゲ生徒ニ神酒及ビ橘柑ヲ賜エテ退場セリ 時正ニ十一時三十分ナリ 嗚呼此日満場ノ整粛ナルコト如何ニモ感スルニ余リアリ 緑門蒼々校外ニ屹立シ国旗翩翻トシテ和風ニ弄セラレ太平ノ象自然ニ現レリ 是レ聖天子ノ徳ニ非ズシテ何ゾヤ 吾々臣民タルモノ寝床ニモ忠ナラン事ヲ忘ル可カラズ」