32 毛織物

925 ~ 925
この織物は、縦七一センチメートル、横九三センチメートルの羊毛を材料とした毛氈で文化年間黒羽の地で製作されたものと伝えられるが、作者は不明である。
 黒羽藩主大関増業が、文化五年(一八〇八)に藩士井上多十郎正長(所蔵者の先祖)と佐藤糺八を長崎に派遣し、毛織の技術を伝習させ、かつ緬羊を黒羽の地で飼育し、その試作をさせたものの一つであると伝えられている。
 この毛織物は、濃緑色の地に灰色の円形をぬき、中に濃緑色の十文字を配した連続模様が見事に染色されている。文化時代に黒羽で製造が試みられたということで重要性があるが、継続的に製造されかつ産業化した記録はない。大関増業の学識が実践されたことを裏付ける意味でも貴重な品である。