一、那珂の清流

935 ~ 936
 那珂川は、那須岳付近を水源とし、那須野が原の北を経て黒羽町の西部を、余笹川・松葉川などの支流を合流しながら南流し、那珂湊で鹿島灘に入る。那珂川の上流にある黒羽町は、古代那須国の文化圏内にあり、古墳時代の象徴的な遺跡も多い。那珂川にかかわる昔話や伝説等も豊富で、清流那珂川を心のふるさととして、校歌や小唄・音頭・詩歌等に数多く詠まれ、那珂川への町民の愛着は極めて強い。
 那珂川は、現在「鮎の那珂川」として有名であるが、近世には日本有数の、鮭がとれる川で知られていた。近世の中期の頃から明治の終わり頃まで、帆かけ船(小鵜飼船)や筏による舟運が行われ、黒羽の属する東野地方は、利根川水系の文化圏に属し江戸と結ばれ、奥州街道の開通によって、南奥(白河・会津方面)にまで商圏を拡大していた。黒羽には両河岸(上河岸・下河岸)があり、最上流の始発河岸として栄えた。現在下河岸には水神を祀る小祠が老松の傍に残っており、付近の石垣と古い土蔵が往時の面影をとどめている。
 天然鮎の豊庫として関東に名高い水の黒羽には二つの観光簗がかかっている。
 黒羽観光簗は、下河岸対岸の那珂橋下流の松林に沿って昭和四十二年(一九六七)開設され県内はもとより近県・京浜地区から訪れる人で大いに賑わったが、昭和五十六年(一九八一)に上流の黒羽橋下に移った。ここは北に那須連山を望み、対岸の高台は黒羽城址に連なる眺望絶佳の地で、この溢れる自然の中で賞味する鮎料理は格別である。
 余一観光簗は、那珂川が余笹川と出合う少し上流の那珂川橋の程近くに昭和四十七年(一九七二)開設され、黒羽観光簗と並んで訪れる人は多い。ここは川を隔てて那須余一のゆかりの高館城址を南に望み、目前には木々の緑にそそり立つ岩肌がのぞいている。松林での野宴は香ばしい鮎の味覚を一層高めてくれる。
 これら観光簗の周辺は、価値ある文化財の宝庫で、史跡探訪・文学散歩・ハイキングなどが楽しめる。
 
黒羽観光簗(黒羽観光簗漁業組合経営)〈口絵参照〉
        黒羽町大字黒羽向町一六三九
 
 開設期間 六月一日~十一月十五日
 来客数 約六万人
 交通案内 黒磯発黒羽行バスで二ッ滝下車徒歩五分。町役場から車で五分。


黒羽観光簗位置図

余一観光簗(株式会社 瑞興 経営)
        黒羽町大字寒井字五輪平一一七九―一
 
 開設期間 七月一日~十月三十一日
 来客数 約一万五千人
 交通案内 黒磯発黒羽行バスで寒井下車徒歩五分。町役場から車で十分。


余一観光簗位置図