六月一日の鮎漁の解禁には、矢倉から寒井矢組堰まで五、六千人の釣り人で賑わう。釣りの花形は鮎の友釣りである。特に「抜き釣り」といって、掛かった鮎を囮(おとり)もろとも高々と釣り上げ、手際よく腰のたも(黒羽ではさてといっている。)に入れる釣り方は那珂川独特のものである。紅葉の秋を迎えると、卵を抱えた落ち鮎の簗漁が始まる。鮎の塩焼きの味は格別である。四月から五月にかけて、アイソの瀬付け漁がある。これは産卵期のハヤ(アイソと呼んでいる。)が、人がしつらえた産卵所に集まるのを投網で捕獲する。一網に数百尾のアイソがとれることも珍しくない。アイソは頭から背中にかけて白い斑点と腹は赤と黒の縞模様に美しく変身する。山椒(さんしょう)味噌の田楽(でんがく)は天下一品の珍味である。秋には、産卵に遡上した鮭を、引っ掛け・鉤(かぎ)引き等でとる鮭漁がある。四キログラム級の大物もとれる。那珂川を主に川鱒(ます)が数多く生息している。水温の高いところには棲(す)めない。切り身の味噌漬が最高である。那珂川や松葉川・堂川では、下げ針・鰻(うなぎ)うけ等の漁法で鰻(うなぎ)がとれる。
那珂川上流黒羽の鮎釣場案内
鮎漁の解禁で賑わう那珂川
八溝山系の入小滝・尻高田等の低温・急流の小川にヤマメが生息している。町の漁業組合では、この増殖に毎年数千尾の稚魚を放流している。一見ハゼのような姿のカジカは十数年前までは無数にいたが、現在は全く消えた。水質の変化に適応できないのであろうか。代わってギンギョ(鯰(なまず)の子分のような魚で、背中の針で刺す。)が殖えてきた。これは淡白で美味である。
この他に、鯉(こい)・鮒(ふな)・サイ・オイカワ(イカリ)・クチボソ・ドジョウ・シマドジョウ(スナハビ)等多くの種類が生息している。ミヤコタナゴ(天然記念物指定)も川西地区の湧水地帯に生息が確認されている。
全国的に河川の汚濁が問題視されているが、那珂川の清流を保ち、少くとも現に生息しているこれらの魚族を守り、子孫に引き継ぎたい。
「川は那珂川、鮎の川」のとおり、町内には釣具店、囮(おとり)屋、甘露煮・焼鮎等の土産店、鮎に因んだ銘菓をつくる菓子店、釣り人の民宿もあって活気を呈している。(那珂川北部漁業協同組合 鈴木羊四郎氏談)