むかしむかしのお話です。黒羽の両郷に富貴田という所がありました。草深い八溝山の麓にありましたので、田畑もなく、さびしい土地でありました。里人は山に入って、狩(かり)をしたり薪を拾ってはくらしていました。
ある夕暮れ時のことでありました。入山(いりやま)の方に赤ちょうちんがついたり消えたりしていました。村人は不思議に思うばかりで、その正体はわかりませんでした。狐火でないことは確かなことであります。村の長者は「竜神さまのお光りかも知れない」と言いました。村人たちは、そうかも知れないと、おそれおののき山に入る者は一人もいなくなったそうです。
それからしばらくたってからのことです。村内のあるお婆さんが、きのこ狩りに行き、道に迷って、この入山に足を踏みこんでしまいました。ところが驚いてしまいました。この辺り一面はかなり広い沼地で、青草が萌え立っているではありませんか。小高い丘もありました。考えてみると此処には、もともと池も小山も無かった筈です。お婆さんは不思議に思いました。幾度も眉につばをつけて見ましたが間違いはありません。
村の長者は、「竜神さまが、この村人のために、池を掘ってくださったのだ。あの小高いボッチのような山は、掘り土の盛り土かも知れない」と。自分でうなずきながら、言葉を続け、「何時か入山の方に見えたあやしげな赤いちょうちんは、この沼を掘る竜神さまの眼が、夜空に光ったのかも知れない」と村人に申されました。それから暫らく経ってからのことです。村人は相談して、この池水を灌漑用水として、稲田を開きました。富貴田の名が、生まれ、ボッチの上には竜神さまがまつられました。地元ではこのボッチのことを今でも『ゆうじんボッチ』と崇めまつっています。「ゆうじん」は「りゅうじん」のことです。
(注)「伝説」の例話は原則として口語体にした。
ある夕暮れ時のことでありました。入山(いりやま)の方に赤ちょうちんがついたり消えたりしていました。村人は不思議に思うばかりで、その正体はわかりませんでした。狐火でないことは確かなことであります。村の長者は「竜神さまのお光りかも知れない」と言いました。村人たちは、そうかも知れないと、おそれおののき山に入る者は一人もいなくなったそうです。
それからしばらくたってからのことです。村内のあるお婆さんが、きのこ狩りに行き、道に迷って、この入山に足を踏みこんでしまいました。ところが驚いてしまいました。この辺り一面はかなり広い沼地で、青草が萌え立っているではありませんか。小高い丘もありました。考えてみると此処には、もともと池も小山も無かった筈です。お婆さんは不思議に思いました。幾度も眉につばをつけて見ましたが間違いはありません。
村の長者は、「竜神さまが、この村人のために、池を掘ってくださったのだ。あの小高いボッチのような山は、掘り土の盛り土かも知れない」と。自分でうなずきながら、言葉を続け、「何時か入山の方に見えたあやしげな赤いちょうちんは、この沼を掘る竜神さまの眼が、夜空に光ったのかも知れない」と村人に申されました。それから暫らく経ってからのことです。村人は相談して、この池水を灌漑用水として、稲田を開きました。富貴田の名が、生まれ、ボッチの上には竜神さまがまつられました。地元ではこのボッチのことを今でも『ゆうじんボッチ』と崇めまつっています。「ゆうじん」は「りゅうじん」のことです。
(注)「伝説」の例話は原則として口語体にした。