二 社叢を樵ると祟る

1005 ~ 1005
 蔵王さまの境内は、さかさ藤のほか、桂の巨木が数本生い茂っている上に、朽木が折り重って倒伏し、足の踏み場もない程です。深閑としていて、寂しそうであります。太古の世界が思われ、背筋が立つ程神秘なものを感じさせます。
 境内の木を切ったり、運び出したりすると祟りがあったり、何かよくないことが起こるといわれ、今もおそれうやまい、むかし通り守られています。
 今までに、こんなことがありました。夜中に、大木を切り倒す音がしたので、何事が起こったかと思っておそるおそる行ってみますと、何事もありません。里人は『天狗のきこり』だろうと話し合ったそうです。
 あるときは、桂の根元に大きな穴があり、そこにすんでいた狐をとった若者が、次々に死んでしまったこともありました。里人はその祟りのおそろしさにおそれおののきました。
 またあるときは、地芝居の芸人が薪をとって焚をしてあたった。ところが、全身火ぶくれになったということがあったそうです。
 その後は誰も、権現さまの木を伐ったり、持ち出したり、現状を変えたりすることが、全くなくなりました。


蔵王(蛇王)権現(大輪)