なんぼ(いくら)信心しても子どもがさずかんねんだと(授からなかったそうです)。ようやく一人さずかったんだと(そうです)。拝む人(口よせ)が来たんで(ので)、聞いてみたんだど(そうだ)、この子どもは、丈夫で育つべがって(育つだろうかと)。
今は丈夫でも、この子どもは、七づ(つ)までのじみょう(寿命)だって(しかないと)いわれだんだと(だそうだ)。
さあ、七づ(つ)までのじみょう(寿命)で(は)、まあ、どしたらよかんべ(どうしたらいいだろう)と、年とってからできた子どもだから………。それが(か)ら、まあ信心して、七つになったらば(ならば)、「餅ついどごれ(もちついでください)。」って言うんだって(と言ったそうです)。
子どもの言うごったから(ことだから)、いっしょけんめい、ふくでもぢ(もち)まるめながら、一つぎり(毎に)に、「なむあみだぶつ」して(を唱えて)、七づ(つ)の餅をお重に入れたんだと(そうです)。そしたら「しょわしてくろ(背負わせてください)」っていったんだ(言ったそうです)ど(と)。そんで(それで)まあ、お重に入れて、子どもにしょわ(背負)し(せ)て(子どもは)出がげだんだと(出かけたそうです)。
さあ、「この子どもは、餅しょ(背負)ってどご(どこへ)いぐんだんべ(いくのだろう)」って、そんで(それで)親だぢゃ(親たちは)二人して、かげになり、ひなたになり、子どもに姿(を)見せね(見せない)ように、やぶっかあ(川辺の薮)に入り入り、二人していぐんだど(行ったそうです)。子どもにめっかったら(見つかると)大へんだが(か)ら、姿見せね(ない)ように行ぐんだと(行ったそうです)。
どごいぐんだと(どこへいくのかと)思ったら、河原さ(へ)おりていぐんだと(行ったそうです)。河原へおりてっ(行っ)たら、その餅を「どっこいしょ」と、おろしたんだと(そうです)。ああ、あの子どもは(餅を)おろして、こんだ(こんどは)、その餅どうしたんだんべ(するのだろう)と思ったら、橋の上から、大蛇が首(を)出して、その餅を子どもがポンと投げっ(投げる)と、パクっとくわえて、まだ(また)おりんだと(降りたそうです)。そうして喰っちまう(食ってしまう)と、まだ(また)、おりんだと(降りたそうです)。そうして喰っちまう(食ってしまう)と、また橋の上からのぞぐんだと(のぞいたそうです)。そうすっと(すると)、子どもがまたポーンと投げんだと(投げたそうです)。まだ、受けんだと(受けたそうです)。受けっ(受ける)と、パクッと喰っちまんだと(食ってしまったそうです)。
さあ「いぐつ(幾つ)いぐづ(幾つ)だなあ」はあ「あど(あと)、いぐ(く)つだなあ」と、一心になって二人して、かげで、子どもの身にあだんね(当らない)ように拝んだんだと(そうです)。(ああ、あど(と)一つだな、あれ一つ食べたら、子どもにかがんだんべ(かかるのだろう)」って、やあ、親だち夢中になって信心して………。
そんどき(そのとき)、大蛇が口(を)きいたんだど(そうです)「餅をたべっちゃったらば(食べてしまったら)、この子どもを取っちまべ(取ってしまおう)と思ったんだけど(そうですが)、あんまり(あまりにも)、陰で親だちが信心しっ(する)から、もったいなくって(なくて)、喰えね。」って、いったんだと(そうです)。
それが「か(わ)ぴたれ」のいわれ。
話者 阿久津ハツ (八十八歳)
採録者 ふるさとを知る会(須藤・蓮実)