一、水の黒羽(くろばね)、早瀬にさめて、月に寝られぬ
窓に明け行く、花の城、チョイト花の城
二、せくな蜩(ひぐら)し、まだ日は高い、今が釣り時
川は那珂川(なかがわ)、鮎の川、チョイト鮎の川
三、那須の篠原(なすのしのはら)、しぐれが渡る、八溝下(やみぞおろ)しか
霧にうず巻く、枯(かれ)すゝき、チョイト枯すゝき
四、月の入(いり)しろ、河鹿(かじか)の沢に、夜網(よあみ)うちかや
友を呼ぶ声、川千鳥(かわちどり)、チョイト川千鳥
五、月は流れる、流れて止まる、止る月影
渕の鮎奴(あゆめ)が、独りじめ、チョイト独りじめ
六、那須の高館(たかだて)、与一(よいち)が矢さき、寄手いろめく
旗のなだれの、一(ひと)なびき、チョイト一なびき
七、紺(こん)の手さしに、あみ笠姿(すが)だ、煙草(たばこ)かきかや
野辺にさら/\紅(べに)だすき、チョイト紅だすき
八、急げ飛行機、金丸原(かねまるはら)で、空の飛雀(ひばり)が
恋のテノール、待ちこがれ、チョイト待ちこがれ
九、月のかくれ家(が)、黒羽城に、春はゆかしや
伊達の昔の、花見唄、チョイト花見唄
十、朝の那珂橋、さぎりがこめて、渡る紅帯
うしろ姿の、ほの/゛\と、チョイトほの/゛\と
十一、夏の高岩、昼ねにござれ、御殿山(ごてんやま)から
聞くも涼しい、蝉(せみ)しぐれ、チョイト蝉しぐれ
十二、盆の娘達ちゃ、那珂川べりを、花のぼんぼり
水にちょろ/\、はれゆかた、チョイトはれゆかた
十三、朝の便りを、待つ川下に、こゝが見頃と
紅を流した、もみじ時、チョイトもみじ時
十四、萩の花床(はなどこ)、夜露にぬれて、虫の恋歌
秋の夜すがら、月がきく、チョイト月がきく
十五、花が烟(けむり)か、けむりが花か、浮世(うきよ)はなれた
春の炭やき、さくら時、チョイトさくら時
十六、夏の朝露、早瀬の笠は、竿(さお)が命の
浮世忘れた、釣の人、チョイト釣(つり)の人
十七、東山から出て来た月も、歌にひかれて
雲のほゝかぶり、盆おどり、チョイト盆おどり
十八、那珂の早瀬を、燕(つばめ)が下る、燕早いか
水が早いか、鳥にきけ、チョイト鳥にきけ
(注)『水の黒羽』は、帝国蓄音器株式会社(テイチク)により『レコード』に制作された。〝美ち奴〟が唄を担当したが、地元の〝田代祐〟も唄っている。