『水神渕』の岩頭に立つ句碑に「住まばやな八塩の里に夏三月 芭蕉」と刻(きざ)んである程である。
この句は『芭蕉』が作ったものでない。芭蕉の踏跡を尋ねてこの地を訪れて詠んだ『桃隣』の句「篭(こま)らばや八塩の里に夏三月」を建碑者等がこれを読み替えて、この里の夏を謳歌したものであろう。
『桃隣』の句心は芭蕉の「しばらくは滝にこもるや夏(げ)の初め」にあるとみられ、興が深い。
この地は御亭(こてや)の山並みが迫る那珂川の河岸段丘上に開けたところである。
『八塩の地名は、岡沢、八塩沢、日暮(ひぐれ)沢など御亭山を刻む谷(たに)があることと、この辺りで那珂川が大きく曲流していることから名付けられたものと考えられる。一般に『八(や)』は『谷(や)』の意に使われ、『塩(しお)』は『川の曲流部』に多くつけられる地名であるからそのようにつけたものであろう。曲流部をこの場合海の『湾』にみたてたのであろう。
八塩の集落景観
八塩地内の地名に岡沢添、猫渕、入山、五倫(輪)田、荒屋、西原、長峰、山根、田中、中島、富士山、山口、東山、高津原、中野内、南山、宮沢、辺栗(ひぐり)等がある。