最近、落葉広葉樹林の伐採、農業改変にともなう圃場整備、都市化に付随する開発や有機燐剤を筆頭とする農薬の空中散布、レジャー狩猟などによって、自然のバランスは攪(かく)はんされ、食物連鎖は寸断されてしまった。
この結果、生息地をうばわれ、食性を乱され、環境を汚染された恒温動物たちの個体維持、子孫維持能力は極端に低下した。
かつては、湯津上村中央部を走る分離丘陵帯上に、クリ・コナラを優占種とする一大林叢が発達し、尾根筋付近の林叢中には、さらに小群落の松林が点在していた。そこは、リスの好適な生活圏であった。
那珂川河岸に見られる凝灰岩の断崖に形成された岩棚は、チョウゲンボウの絶好の生息地であり、巣よりの飛翔は勇壮そのものであった。しかし、現在はこれらの懐かしい動物たちも姿を消し、沈黙の自然がそこに存在するだけとなってしまった。
夏季の食物連鎖模式図(日光戦場が原付近)
視線を水界に転じてみよう。那珂川・箒川に囲まれ、四季おりおりの変化に富んだ水的環境をもつ当村の水産資源は豊富であった。だが、現在時代の波はここにもおしよせ、魚類を迫害している。河川改修・護岸工事による物理的環境破壊、洗剤・農薬を始め多くの生活排水による化学的環境汚染は、魚類の生息水域を悪化し縮少させてしまった。古里の魚、カジカ・ウナギ・ナマズ・カマツカなどの減少は顕著であり、寂しい限りである。
カジカ 加藤仁(佐久山)