植生傾向として、暖帯性のカシ・クリなどがよく生長したり、温帯性のクヌギ・コナラの植生も見られ、南方系と北方系の植物が混生していることがわかる。これは、当村が年間平均一三度の等温線のやや外側(低温側)に位置しているため(暖帯と温帯の境界地帯)と考えられる。さらに、年間平均降水量が一五〇〇ミリ線上に位置することも追記しておく。
栃木県の年平均気温分布
植物の三階層
潜在自然植生上より、本地区の推移を考察するとき、当然この地帯はシラカシの広大な純林となり、その林床にはヤブコウジ・アオキが生育し、ベニシダなどが地表をおおっていたものと思われる。しかし、現在、それらが痕跡的となっているのは、有史時代より綿々と続いた開墾などの、人為的自然改造によるものであろう。この森林改変は、逐次シラカシ優占の森林を伐採し、薪炭用材のコナラ・クヌギ林へと移行していった。そして江戸時代にはすでに安定した落葉広葉樹林になっていたはずである。この林も、日本列島改造の余波をうけ、再び伐採され、植生は乱混の状態におち入った。
現在見られる当村の代表的な植生は、丘陵帯上のアカマツと、クリ・クヌギ・コナラなどの混交林である。その下には低木層にヤマツツジがよく繁茂し、さらに、その下草には、チゴユリ・タガネソウ・クロヒナスゲなどが生育している。
生態的分布をみると、東部、那珂川沿岸の野島河原には、カワラハハコグサ・カワラヨモギなどがほとんど見られず、ドブ川や畦となんら変わりない植生を呈してしまった。河川の汚濁現象の一つとして嘆かわしい。
ただ、上侍塚南の旧砂利プラント入口の渓流沿い湿地帯に、ハンノキ・イカリソウ・ニッコウキスゲなどが自生していたことは、僅かに昔を偲ぶものとして喜ばしいことである。
湯殿の渡し入口付近の渓流沿いは、木立ちの下に各種のシダ類が豊富で、正にシダの宝庫の感があり、旧砂利プラント入口湿地帯とともに、今後も長く自然保全の地として、その保護に努めたいところである。
西部地帯には、表日本型植物のニシキウツギ・ヤマブキソウ・タマアジサイ・イワタバコ・アオキなどが見られる。一方、裏日本型植物のタニウツギ・トリアシショウマなどの混生も確認された。
タニウツギ
さらに、箒川沿いに分布する、海岸性のコモチシダ・ハマエンドウは、生態学上見落せない重要な要素を含んでいる。