五人組

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五人与(くみ)、五人組合とも書き、江戸時代における庶民の隣保組織である。一般的には五戸編成を原則としたが、小さい所で一、二戸、多いときは十数戸に及ぶ場合もあり、その長を五人組組頭とよんだ。江戸幕府は、成立後間もなく切支丹禁制や浪人取締など、主として警察目的のために相互監視的な役割を充分に持たせ積極的にこれを実施し、諸藩もこれにならった。すなわち、異教徒や犯罪者の相互監察と告発や、領主に対する年貢確保のため、組合員は連帯の責任を負わされ、領主の意志伝達機関としても利用されると共に、成員の相互扶助的な役割をも果した。五人組帳という名簿を毎年作り、相互に守るべき事項を記し、これを毎月または年に数度、五人組寄合いの席で反復読み聞かせ、これに違反せぬ旨の誓詞を書かせその趣旨の徹底を図った。この制度は明治の初期まで続き、やがて近代的自治制度と共に衰退したが、第二次大戦中に行われた隣組制度は、この五人組制を模した強制的隣保組織であった。
 また、昭和五十三年から強化された水田の減反政策は、減反面積を部落単位に割当て、部落に連帯の責任を負わせ、これを消化出来ないときは、個々の農家への奨励金は支払はないというもので、これは明らかにこの五人組制度から生れた発想であろう。

五人組帳(蜂巣英夫家所蔵)

      元文元年
    下野国那須郡湯津上村五人組帳
      辰 七月   名主
                源次右衛門
 
一 従 御公儀被 仰出候御法度書、名主方へ写置、常々大切に心掛相守之、名主組頭共寄合村中へ申渡、違背為仕間敷候事

一 切支丹宗門之儀、前々御改之通、村中大小之百姓之儀ハ不申、召仕之者、門屋・借屋其他出家・社人・山伏・行人・虚無僧・鉦扣(打)(かねたたき)・穢多・乞食・非人等に至迄、村中に居住之者、壱人も不残人別相改候而、菩提寺之宗門之外御法度之宗門之者、村中は勿論、他所に而も見出し聞出し候はば、早々申上、御褒美可申請候、若隠置脇より訴人有之候はば、名主五人組迄、急度曲事可申付候事

付り 切支丹ころびの者有之は、帳面に記指出可申候、若他村より不男女に縁組等にて右の族来り候はば、早速注進可仕候、惣而他所より越来候者、又は下人等抱候共、宗旨相改寺請状可取之事

 (注) 門屋 農家の屋敷の中にある小屋または納屋、下男・作男などが住む小屋。
     社人 神職のこと。
     切支丹ころび 切支丹教徒が、宗門を改め仏教に改宗すること。
一 五人組之儀、毎年可之、町は家次郷は最寄次第に組合、慥成者組頭に相定、諸事御法度之趣急度相守可申候、若五人組にはつし置候歟、又は組頭の不下知徒者有之候はば、其一組より可申出、詮儀の上急度可申付候事

一 御用之儀、何方より申来候共、無遅滞可相勤候、廻文之儀日限刻附遅仕間敷候事

一 耕作之儀、念入仕付草耕仕、御年貢米永割付之通、皆済可仕候、若未進(年貢をまだ納めないこと)仕候百姓有之候はば、急度可申付候、且又耕作不情(精)成百姓田畑荒置候はば、名主年寄吟味可仕候、尤小検見之節も引方相立申間敷候事

附り 口米銭之義、前々御定之通に可仕事

一 百姓商人家業を第一に相可勤候、耕作之間たりといふ共、何成共其所に而致来候仕業無油断心掛、朝夕共に渡世に心を付、妻子下人等迄も其善悪を申聞せ、縦(たとえ)凶年の時節たり共、取続候様に常常思慮仕、渡世大切に心掛可申候、若百姓に不似合遊芸を好、所帯之費にふ構不行跡之者於之は、無隠可申出、吟味之上急度可申付候事

附り 耕作商売等も不致、家職共不知者村中に有之候はば、無隠可訴出候事

一 御年貢米金銀皆済無之以前、穀物他所へ一切不之、若御年貢引負欠落可仕様子、及見候百姓有之候はば、其五人組詮議仕名主方へ相談を以無油断押置、欠落不仕様に可致、御年貢之儀五人組・名主・組頭了簡仕候而、急度皆済可仕候事

 (注) 引負 ここでは年貢を使いこんでしまうこと。
     欠落 失踪して行方をくらますこと。
 
一 御年貢米拵之儀、随分念入あらおれ・小米・青米・死米・ちりごみ抔無之様に拵立可申候、俵拵之儀、二重俵に而中摺繩を以小口蜘かかり・茶かかりか何れ成共、一様に可仕候、舟積之儀は、紙に而国郡村々名主・御代官之氏名・年号月日・米主・枡取・米見之名銘々書付判形致、俵毎に可之、上札は木札か竹札に而、国郡村御代官之氏名主名(ママ)斗り可書之、札裏に貫目可記事

附り 御米舟積仕候に、沢手(水に濡れた米)送不申様に、上菰掛可申、御蔵前に而廻し俵之中札無之候而、枡目不足に候はば、米主詮儀の上急度落度可申付候事

一 御米江戸廻しの時上乗(船に乗込み、荷物を管理監督する人)納人之儀、吟味之上働有之慥成者を相極可申候 勿論上乗極候はば、私曲仕間敷之旨、証文取置可申候

御蔵米入用並雑用多不入様に可仕、尤委細に帳面に記し、役所に指出し吟味請可申候事

附り 御米郷倉へ納置候はば、名主・組頭相印仕置、御用之節出し可申、急の儀に而も名主壱人に而封切申間敷候、郷倉雨不漏様につぶれざる様に念入、壁垣下敷等可仕候、其上番をすへ無油断仕候事

一 毎年御年貢割付目録出し候はば、村中之者拝見仕、名主・年寄方より大小之百姓出作之者にも、不残相触寄合候而致割合、浮役・小物成に可納米金壱人前宛委細に書付、小百姓にも疑敷不存様に其訳申聞せ、其上割付之奥に別紙ニ継候而、立合披見仕候者、印形可取置候、年貢割仕節、村中夫銭小入用御年貢入目一同に不致、指割を以可し割合す、御年貢の米金、申渡す日限之通相納申候様に、常々村中可申合

一 御年貢米金銀、名主方へ取集候節、帳面金銀米銭之員数、主之名、月日記之、納主之判形取置、請取手形には致判形、請取手形之判形帳面と押切、納候度々相渡、後日に出入無之様可仕候、若し不念に而、請取手形不置取、後日に訴出候共、取上間敷候事

 (注) 出作 他村の田地を耕作すること。
     浮役 年貢以外の雑税の一つ。次の小物成のうち。
     小物成 正式の租税以外、山野・池沼などに課せられた雑税のこと。
     入目 費用、入用。
     押切 割印すること。
一 御年貢皆済の納払勘定致候節、皆済目録に判形致可留、村中大小百姓立合相改、相違無之趣奥書、惣百姓連判仕置、追而役所へ可披見候事

一 惣而従公儀下候人足扶持、其外代金渡し候はば、早々当座銘々割致し、帳面に請取候趣為書付、判形可取置之差次勘定ふ致事

 (注) 差次勘定 いわゆる匙加減のことならん。
一 公用の儀又は村中申合等の儀に付、百姓寄合候節、村用懸り候食物酒肴等、一切給申間敷候、堤・川除・用水堀さらひの時、人足等村入用に懸酒給させ間敷事

一 手代・書役・妻子・召使等之儀は不申、若党中間等に至迄、金銀・米・銭・衣類・諸道具・酒肴其外軽き者成共、音物(おつかいもの)仕間敷候、右之者共へ貸借物或は押売何事によらず、不作法の儀致候はば、無滞有躰に其趣可申出候、隠置後日に相聞候はば、名主年寄可越度

一 家来並手代之召仕、村方へ口上に而申儀は勿論、役所之印形も無之書付を持参仕候而ハ、何事を申付候共、一切承引不仕早速可訴出

一 自分並手代村々へ相廻り候節、飯米・塩・味噌・薪・野菜等其所に而相場値段調候時々に代物受取、売上帳面に判形可仕候

一宿昼休之処に而も、右之通上下共に百姓之馳走に不成、村々費無之様に申付候条、酒肴等此方より指図無之様に候者、何に而も調置申間敷候、若調置此方へ不入に付、寄合呑喰村入用に割掛候はば、名主年寄可曲事、無差図人馬集置、万百姓之源を費し申間敷候事

一 村中年中之夫銭・懸り物・小入用之儀、随分名主年寄吟味をとげ、入用多無之様に可仕候、毎年、前々年之入用帳写相添可指出候、吟味之上入用写帳此方に留置、本入用帳名主方へ可相返候間、年々村入用帳紛失無之様に可仕事

一 郷中に火事出来候はば、郷倉へ欠付囲可申候、勿論郷倉に無気遣火事に候はば、火本へ参り消可申候、惣而火之用心大切に可仕事

一 第一親に孝行を尽し、下人は主に能随、主人は召使を憐み、夫婦仲よく、兄弟親類親しく、友達(ママ)は老たるを敬ひ、物毎頼母敷諸人に対し無礼悪口不仕、つつまやかにして家業を専らにし、所之法を背へからず、又村中に勝れて親に孝行なるもの有之候はば、其子を見届委細に可申上、常々親に不孝を致し、心立悪敷、老若に対し我儘之勤仕、耕作に不精入、博奕が間敷儀がさつ口論を好み、夜あるき無作法にて、行跡ふ見届もの有之候はば名主五人組異見可申、若不用候はば其段可申出、隠置後日に顕れ候はば、其五人組共に可落度、不行跡之百姓、御年貢方未進を有し候はば、其五人組並名主可弁納候、然間見届け難ものには常々意見可仕事

一 田畑並山林永代売買御停止に候、もし無拠子細有之候而、年季限り質物に入候とも、吟味の上名主五人組加判を以、手形取引可仕候、尤田畑質物に入金銀を借、其田地金主に相渡之、御年貢諸役は先地主相勤候儀、是又御停止に候、惣而請人無之諸質物堅く不之、若盗もの等猥に質物に取候族有之候はば、急度可曲事

附 御朱印地之田畑、質物には取申間敷候事

一 本田畑儀は不申、或は荒起或は新田畑又は、切次の田畑畑成田等有之候分は、壱分の所なりとも申出、御年貢上納可申、如何様の悪所成とも荒し申間敷候事

附り 荒間並古荒其外、新田畑に起し可然所有之候はば、可申出候事

一 新地之寺社、堅く可停止、惣而小祠・念仏題目之石塔・供養塚・庚申塚・石地蔵類田畑山林又は、道路の端に新規に一切建申間敷事

一 神仏開帳等致候はば、可注進候、他国へ当分持出、開帳仕候儀有之は、先速而注進可仕候、是又他所より神楽神躍等来候共、ふ請候、村中に少しの間もさし置申間敷事

附り 寺院の住持又は社人等替り目の節は、役所へ注進可仕事

一 前々より有来り候百姓潰し、田畑持添仕候儀は不申、縦死失候而跡式潰百姓之田畑に候共、持添仕間敷候事

一 村中之者、或は立退或は焼竈、或は身上潰候而、住居難成もの有之は、注進可仕、尤如何様なる小百姓又は水呑百姓に候共、私として所を追出し申間敷候 並勘当不通の者於之ハ、役所へ訴出可下知候事

一 高弐拾石己下の百姓、子どもに田地分譲り候儀堅可停止、弐拾石以上たり共、田地分候はば、訴出可指図、惣而新地に百姓有付候はば、可注進候、百姓跡式の儀、存生の内名主・年寄立会書付置、後日に出入無之様に可仕候事

一 百姓之子供、幼少にて親におくれ、百姓仕儀不罷成もの候はば、親類並名主五人組相談を以、後日に出入に不罷成様に証文取引、田畑預り置、御年貢諸役相勤、其子成人次第に願出候者無相違相渡、百姓に仕付可申事

一 独身之百姓無紛相煩、耕作成兼候時は、其五人組は不申一村として助合、仕付草耕等仕、御年貢収納致候様に可相心得

一 捨子堅仕間舗候、若他所之者捨置候はば、村中に而養育いたし、早速注進可申出

一 人売買仕儀 弥可止之、百姓男女は年季限無之譜代に召抱候とも、可相対次第之事

附 人請に相立申間舗候、無拠子細有之もの、名主五人組方へ改差図を可請事

一 御鷹場の外たりといふとも、鶴・白鳥取候儀、一切御停止候、村中において右之大鳥売買等仕間敷候、若相背もの有之候はば、可訴出

一 牛馬売買之儀、慥成証人口入無之而、売買一切仕間敷候事

一 牛馬放れ来り候はば、つなぎ留飼料仕、早速馬主不知候はば、注進申出べし、勿論馬取放し不相見候はば、是又早々注進可申出

一 御朱印伝馬人足之儀、御定之通出可申候、並往還之馬次不昼夜駄賃人馬出可申、勿論増銭取申間敷候事

一 御伝馬宿へ定助代助より人馬寄候を、年寄吟味到猥に人馬之触仕間敷候、其宿之人馬を囲い置、面々勝手に能き荷物仕候様なる儀、一切不

御朱印は勿論、駄賃伝馬人足之儀、常々致吟味置、滞り無之様に可仕事

附り 助郷へ人馬触来り候はば、刻限を不違出し、若人馬割に難心得事有之候共、無滞出し後日に可申出

一 御用之人馬は不申、本海道にて無之候とも、往来のもの駄賃ハ馬人足共に不限、昼夜無滞可指出、御朱印又は御証文も無之人馬出し候様に与申、或は駄賃銭も不出罷通候もの有之は、早々押置、名主年寄立会、怪敷躰ニ候ハバ役所へ可注進

一 山林竹木並枝葉一切伐取申間敷候、若猥之儀有之候はば、詮義の上、急度可申付候事

附 百姓四壁の竹木に候共、猥に伐取申間舗候事

一 入会野山面々持林にても、木の根を掘取申間敷候、鶴しはしを入候儀可停止、田畑へ山崩砂入等無之様に、山林に苗木植立可申候、山中筋に而焼畑仕来り候所は格別、野火付候義可停止

一 御関所有之候川附の村々は、比丘尼・出家並前髪有之候ものは勿論、猥に川向人越申間敷候、通女渡船にても、又は其村に有之候小舟にても頼み、川向へ越申度と申もの有之、不審に相見え候はば、留置注進可申、密々猥成儀仕候はば、其船頭並名主五人組共に可曲事

一 大雨降所々川々水出候はば、無油断郷中壱人もふ残罷出、堤切不申様に、弱き所へは土俵を拵置、入念堤かこい可申候、常々弱手の所候はば、其村は不申、隣郷早々罷出、堤丈夫に可仕事

一 堤川除井樋御譜請所破損出来候はば、其場所相改、書付を以申出下知次第に可之、小破の分其村百姓役に早々繕仕、不大破候様常々心掛可申事

附 堤川除・井樋・道橋前組合譜請所人足入用相滞候百姓候はば、急度可越度候 惣而道橋の儀、破損の所候はば、無断慥拵可申候、且又堀を埋又は道をせばめ、秣場をせばめ、田畑不仕 出前ニ無之所に新道新堀を不附、尤用水に留置候所、断なく切落し申間敷候事

一 惣而用水百姓仲間にて公事出来不仕様に、常々致吟味、物毎正路に御用大切に可仕、若仮初成儀も支配人を申出、公事好仕候百姓有之候はば、当人共不申、名主組頭共に曲事可申付候、一村之内、百姓中間六ケ敷儀出来候はば、名主組頭立合内々にて相済候様に可仕、悪心を以公事好を仕、非之事を働き、偽候書をたくみ、人に害をなすもの於之は可訴出、詮議の上越度可申付候事

一 他所のものと出入の儀出来候はば、双方承合内々にて相済候様に可仕、若不相済儀にて他所へ訴訟申儀候はば、役所へ訴出得下知申候事

附 親類縁者に候共、出入の手伝仕り、可相済儀滞り候様に仕候族有之よし、相聞候はば急度曲事可申付候事

一 公儀へ仕上け候手形証文之儀は勿論、百姓中間にて取引候手形も文言承届け、其上判形可仕候、左も無之後日に右の手形及出入候節、文言は不年(念)候へとも判形仕候、無筆故文言不存候抔申候はば、急度可曲事候、此帳面の末に仕候印形之外、用申間敷候、自然印形紛失仕候百姓候はば、代りの印形指出、判鑑み直し可申候事

一 不何事百姓悪心をくわだて、一列神水等呑候儀可停止事

一 喧〓口論出来候はば、所のもの出合相留め、埒明可申候、若内々にて不済儀に候はば、双方の申分可訴出、勿論手負のもの候はば押置早速可申出、縦あやまりにても疵付候とも、其子細即時に不訴来る候、尤他村にて喧〓等有之節、ふ馳集候、人を殺立逃候もの有之候はば、隣郷のもの迄出合搦捕早速可注進、捕候儀難叶候はば、跡をしたい落付所へ急度可申届

一 往還の旅人又は飛脚の者煩出し候はば、其所の名主組頭立合、其ものの名所出生相尋書付置、随分看病可仕、疎略仕間敷候、自然相果候はば、名主組頭立合候而、彼のものの諸道具相改、封印附置、早速そのものの在所へ申断べし、急病或は酒酔等村送に不仕、其所に而助抱正気に成して行歩も叶候はば、人を添村送に可仕事

附 路道にて行衛不知、首くゝり、自害又は倒死候もの有之候はば、早速訴可来事

一 盗人又は火の用心のため、村毎に詰能所に番屋を造り、夜番可指置、郷中の儀は勿論隣郷共に、盗人見出し鳴(声?)を立るにおいては、早々出合とらへ候様に可仕候、如何様の儀にても殺し申間舗候

附り 行衛不知・出家・社人・山伏・行人・虚無僧・鉦扣(打)・穢多・乞食非人惣而不審成もの、宿一切可停止、若不届の儀有之候はば、当人可同罪

一 人を殺し候もの、又は盗族其外徒もの、堂宮山林にかゝまり候はば、所のもの隣郷ともに立合、搦め捕り可申候 若其場所に而難捕候はば、何方迄も跡をしたひ、落着所へ断搦可申候 縦如何様のものに候とも、打殺し申間敷候事

一 他所より引越候もの儀は、跡々出所へ断致し、於構は、請人並宗旨手形を取指置可申候、勿論出所行衛不知、壱人もの或は出家・社人・行人・山伏・虚無僧・鉦扣(打)・穢多非人惣而不審が間敷もの、或は欠落人其所に囲置候儀は不申、一夜の宿も堅可停止

一 出所行衛不知浪人一切置申間敷候、乍然名主組頭吟味仕、慥成ものにて親類縁者請人に立ち、致手形候はば、得下知指置可申事

一 公事訴訟に罷出候節は、名主・年寄・五人組へ相届致同道候歟又は添状可持参

一 博奕・ほう引惣而賭勝負等何事に不依、博奕に似たる儀、一切可停止事、並操かふき(歌舞伎)・舞廻・放下師其外何にても、見物遊物堅仕間敷候、惣而遊女郎の類、一切村中に不指置一宿も堅仕間敷事

附 諸勧進乞食修業者、郷中猥に俳廻為仕申間敷候事

一 他国他村へ奉公に罷出候か、諸用候而参候歟、又は諸社山へ参詣仕候はば、小百姓は名主五人組へ可相断、名主組頭は役所へ可相伺

一 用事有之候而郷中へ参候者は格別、用事なくして他所より節々来輩有之候はば、其所の出入仕候宿に、名主五人組遂詮儀、向後出入不仕様に可致事

一 手代より名主百姓は不申、百姓仲間親類縁者の間にても、御年貢取引は勿論、金銀米銭其外小々事も手形可取引、後日に無証拠六ケ敷申出候はば、双方詮義の上曲事可申付候事

一 名主百姓妻子等に至迄、衣類の儀倹約相守り、百姓に不似合衣類不着、尤沙綾・綸子・縮緬の類、えり帯にも仕間敷事

一 百姓家作の儀は、分限より軽く可仕、目立候譜請不致、並に男女共に乗もの鞍置馬に乗候儀、堅可停止

一 仏事祭礼又は嫁取、新宅のひろめ、初出産の祝、惣而肴ケ間敷無之様に、分限より軽く可仕、其他親類出合常々振廻等に至迄、有合にまかせ随分軽く可仕、尤大勢集り大酒乱舞等一切可停止

一 郷村水論無之様に、先頃よりの例を以懸引、兼而可定置候、理不尽成儀仕間敷候、又は領境・山林境・野境・田畑屋敷境論有之時、喧〓口論仕間敷候、左様の節は申分可訴出候、若諍論の節、刀・脇指・弓・鑓・長刀を持罷出候者於之は、曲事可申付候事

一 名主百姓刀指候儀は不申、大脇指差候儀堅可停止、若百姓に不似合致風俗、長脇差を指、喧〓口論を好、或は大酒を呑酔狂いたす輩有之候はば、無隠可訴出

附 何方之不衆中、刀指候奉公人に対し、慮外等一切仕間敷候事

一 有来候酒屋の外、新規の造り酒屋請売酒屋共に可停止

一 前々より定め鉄砲の外、此方へ無願自分として鉄砲調所持仕間敷候、猥に鉄砲所持候者有之候はば、無隠可申出、若隠置候はば、名主五人組共に当人可同罪

一 御高札大切に可相守、文字見え兼候はば、役所へ申出指図可請候、並周不見苦候様に可仕事候

右之条々堅相守可申、若違背仕輩於之者可曲事、此書面名主方に写置、毎歳正月五月九月、一ケ年に三度づつ、村中大小之百姓寄合慥に読聞せ、常々此趣合点仕罷在候様に、入念ヲ可申付もの也
  元文元年辰五月
追触
一 名主加判無之質地証文之事

一 名主入置候質地、同名主又は組頭等加判之証文の事

一 拾ケ年季を越候質地証文之事

右三ケ条の儀並田畑永代売買又は地主より年貢諸役を勤、金主は年貢諸役を不勤質地の類は、前々より御停止にて、村方五人組帳に書記有之所、右の通不埒の証文を訴出候も無之、自今五人組帳名主組頭歟庄屋等より大小の百姓へ、度々読為聞不忘却様に可仕候

一 享保元申年己来、年季明候質地は、自今年季明拾ケ年過訴出候はば、取上無之事

一 金子有次第可請返旨証文に有之候敷地は、質入の年より十ケ年過候はば、取上無之事

右二ケ条自今拾ケ年の内訴出候はば、裁断有之候、右年数過候はば取上無事

右五ケ条元文二歳巳二月中被仰出候趣、若相背候はば早速御訴可申上候、右之訳名主組頭五人組へ隠し願出候はば、急度曲事に可仰付旨奉畏候、此書付名主方に写置、毎年正月五月九月壱ケ年に三度ずつ、村中大小の百姓寄合慥に読聞かせ、常々此趣合点仕り罷在候様に、入念に可申付もの也

前書之六十五ケ条、一々奉拝見、御法度の趣慥に受届け、村中大小百姓門屋借屋のもの迄、十五歳己上の男の分は、此五人組に壱人も除き候もの無御座候、右の御法度書、名主方に写置被仰付候通読聞せ、銘々合点仕候、急度相守可申候、惣而此帳面村中判鑑に罷成候に付、壱人も不残判形仕上申候、若御法度の儀相背候族御座候はば、其当人は不申、名主五人組共に、如何様の曲事にも可仰付候、為其連判仍如

  元文元年辰五月      野州那須郡湯津上村
                 名主  源次衛門
                 組頭  甚兵衛
                 年寄  文右衛門

(江崎源治右衛門家文書)