2 祭神について

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 祭神については、多くの神々が信仰されており、その総てをここに書きつくすことは不可能である。ここでは、湯津上村に鎮座している神社の祭神を対象にし、どのような御神徳をもっているかを記すことにした。「分り易い神社の話」「全国神社祭神御神徳記」を参考文献としたが、同じ名の祭神であっても全国すべて同じ御神徳をもっているとは一概にいえるものではなく、そのため、疑問の生じる点もあろうかと思われる。
    大己貴命(おおなむちのみこと)
 別名を大穴持命、大国主神、八千矛神、顕国玉神と称し、また、俗に大黒様という。素盞鳴命の後裔であり、少彦名命とともに力をあわせ、心を一にして不逞の徒を平げ、国土開発、経営に力をつくし、田畑をひらき、水利を通し、また人民家畜のために温泉の効能を教え、医薬の道まじないの法を授け、さらに、酒を醸す業をも教えたことにより、次のような神としてあがめ奉られている。
       1 温泉開発の祖神
       2 医薬の祖神
       3 鎮火禁厭の神
       4 福徳開運の神
       5 五穀の守護神
       6 造酒の祖神
       7 武勇厄除の守護神
       8 縁結、安産の神
       9 漁撈航海安全の守護神

    少彦名命(すくなひこなのみこと)
 別名を少名牟遅神、少御神と称し、大己貴命と約して兄弟となり、よく大己貴命を助け、国家の発展、畜産農工商の業に偉大な功績をたてられた。恵比寿様とする考えもあり、その御神徳は大己貴命と同じである。
    誉田別命(ほまれたわけのみこと)
 第十三代応神天皇である。八幡大神とも称し、武勇神、軍神としてあがめ奉られ、武運長久守護の神として古来より知られている。
    火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)
 伊邪那岐命、伊邪那美命の子であり、火が燃えさかり、すべてのものを速く焼きつくす霊力をもっている。また、火産霊神ともいわれ、その名は火が万物を生み育てる力の根源である霊力をたたえる名であるといわれている。
 火がすべてのものを焼きつくす恐しい力をおそれ、この神を祭って防火の祈りをささげるにいたった。さらに古代にあっては、山野を焼きはらい五穀をまいたことから、火の守護神と同時に農耕の神としての御神徳をももっている。
    健御名方神(たけみなかたのかみ)
 大国主命の子の事代主神と兄弟神で、事代主神は早く忠誠を誓ったが健御名方神は抵抗を試みて、力かなわず信州にのがれ、ここを鎮座の地と定めたといわれる。
 ミナは「水の」であり、カタは「水の洲、浅瀬になっている所」の意であるところから、タケミナカタノ神とは、諏訪湖の水の守護神のことである。そのことから、古くは農耕上で水の守護神、ひいては生活の根源神として信仰され、中世以降は威烈ある神として、信濃源氏の進出とともにその信仰が全国に広まった。
    別雷命(わけいかつちのみこと)
 雷の神である。大山咋命(山の神)、玉依姫(川の神)とともに、山城平野の開拓の恩神として仰がれ、農耕守護の神としての御神徳があるといわれる。
    倉稲魂命(うかのみたまのみこと)
 ウカとは「清浄あるいは立派な食物」の意であり、稲をさしている。稲は生活の基礎であるところから、ウカノミタマとは、人々の生命を養い育てる力を称えた名であるといわれる。
 また、歳神(五穀の神)と兄弟であり、神大市比売(商売繁昌の神)の子であるということから、ウカノミタマノカミには次のような御神徳がある。
    1 人々の生命を守り育ててくれる神
    2 五穀食物の守り神
    3 商売繁昌、商取引の守り神
    4 一年中の幸福守護の神
    5 人々の不浄穢れを祓い、これを守る神

    事代主命(ことしろぬしのみこと)
 大国主命の子であり、健御名方神と兄弟神である。善き言(こと)、悪しき言(こと)も一言で判別し得る明智をもたれた神であり、また天地万般の事(こと)をよく知った神でもある。
 また、別称を恵比寿様といい、豊漁の神、延いてはあらゆる生産、商売の守り神としての御神徳がある。
    大山祇命(おおやまづみのみこと
 速秋洋日子、速秋津比売の子であり、山の神である。また、航海者は山頂を航路方角の一基点として仰ぐので、航海者の信仰が集り、さらに山に鉱物が埋蔵されているため、鉱山の守り神にもなっている。
    菅原道真(すがわらのみちざね)
 幼にして衆に秀で、五歳にして和歌を詠じ、十一歳にして詩をよみ、白楽天の再来といわれた。後、朝廷に仕えて反対派に忌まれ、太宰権帥に左遷され、配所たる太宰府で薨じた。これらのことから、学問の神様書道の神様としての御神徳がある。
 また、道真の死後、火雷が洛中に降り、各所を炎上せしめた末、ついに政敵であった藤原時平も落雷のため死亡するという事件があり、道真祟りといわれた。そのため、火雷天神としても厚く祀られている。
    素盞鳴命(すさのおのみこと)
 神名については、須佐之男命、速須佐之男命、健速須佐之男命、速素盞鳴命、須佐乃乎命、須佐能烏命、須佐能乎命、須佐能袁命、速須佐能雄能神など多種多様の書き方をしている。その御神徳については、次のとおりである。
    1 山林漁業の守護神
    2 人命救助、農業保護の神
    3 清明を尊ぶ神
    4 罪を祓う神
    5 安住の天地をつくる神
    6 清浄と正直を示す神

    田心姫命(たごりひめのみこと)
 市杵島姫命、湍津姫命とともに水の神である。農耕には灌漑用水の神、海上交通には水路守護の神として、その御神徳がたたえられている。
    伊弉諾命(いざなぎのみこと)
    伊弉冊命(いざなみのこと)
    ――熊野神社との関係――
 この国を生んだ国祖伊弉諾命の妻神である伊弉冊命は、その死後、熊野の地に葬られ、その祭の日には旗を立て、その霊を慰めたといわれる。この神話から、人々は死後、この熊野の地の伊弉冊命の御元に魂が帰り、ここで伊弉冊命の懐に抱かれて安らかにねむることができるという信仰があった。
 そのため、生きているうちにこの地を踏み、信を重ね結縁しておきたいという念願で、さかんに熊野詣が行われた。これらの信者によって、全国各地に熊野信仰が広まったといわれる。
    日本武命(やまとたけるのみこと)
 景行天皇の皇子で、本名は小碓皇子。天皇の命を奉じて熊襲を征し、誅伐された川上梟帥は死にのぞみ、その武勇を嘆賞し日本武の号を献じた。後、東国の蝦夷を鎮定、往途、駿河国で天叢雲剣によって野火の難を払い、走水の海では妃弟橘媛の犠牲によって海上の難をのがれた。帰途、近江伊吹山の賊徒征伐の際、伊勢で没した。これらのことから、英雄神として、国土開発の神としての御神徳がある。