一般に隠居をするという場合、世帯主が跡取り夫婦に身上(しんしょう)を渡すということであるが、隠居屋(隠居所)を建てて隠居できる家は、大家に限られていたようである。隠居屋を建てる場合は、「西は引っ込む、裏は本家より出ない」と言って、本家の西もしくは裏へ建てるのが普通であった。隠居する年は五〇歳から七〇歳ぐらいまでの間が多いが、その時は村付き合いから一切手を引き、自分の生活安定のため隠居面(いんきょめん)と呼ばれるわずかな耕地をもらって自分で耕し、生活は家族と別にした。しかし、簡単な隠居仕事や、忙しい時期には頼まれれば孫の子守りなどをすることもあった。普通隠居主の死と共に隠居面は本家へ戻るが、長男が家を継ぐと二、三男が隠居屋に住むこともあり、いわゆる隠居分家となった場合は、宅地や家屋はもちろんのこと、かなりの耕地が分与された。