昔の嫁(よめ)とり婿(むこ)とりの仲人は大儀な役であった。仲人が骨を折って嫁や婿を探すわけであるが、これが簡単にみつかるものではない。それでも仲人の努力によってどうにか嫁や婿をむかえるということになるのだが。……あるとき、作法もなにもわからない男に仲人さんが嫁を世話することになった。しかし、婿は大ばか者なので仲人さんも気が気ではない。話はとんとんと進み、晴れてご祝儀(結婚式)の運びとなり、式の当日はじっと坐って、すべて仲人さんまかせで無事済んだが、今度はお新客(しんきゃく)(里帰り)で嫁の家へ出向くことになったから仲人さんは大弱り。お新客では仲人さんが付ききりで指図をするというわけにもいかない。そこで、「嫁の家にいったら最初に馬をほめるんだ。その次はきちんと挨拶をして、今後のことをよろしくたのむんだ。」と婿に教えて聞かせた。しかし、婿は挨拶もろくにできそうもない。仲人さんは考えた末に自分であらかじめ縁の下にもぐり込み、婿のきんたまの先へ糸を結びつけて、それを引いて合図をすることにした。やがてその日となり、仲人さんは嫁の実家の縁の下にいて糸をつかんで聞き耳を立てていた。婿は馬をほめたが次の挨拶ができない。そこで仲人さんは糸を引いた。婿は「こんにちは」と挨拶をした。しかしそのあと何の話も出てこないので仲人さんはまた糸を引く。すると婿は「こんにちは」と挨拶をくり返す。仲人さんはもう少し何か違った話ができないのかと思って力を込めて糸を引いた。婿はとうとう我慢ができなくなって、「ごっきごっき、ごっきりこいじや、ぬけそうだ。」と悲鳴をあげたそうだ。