欲の皮のつっ張ったお坊さんがいた。法事などに頼まれては自分一人でさんざんご馳走になってきた。大変のんべえで、常日頃から指一本出したときは酒を一升買ってくるのだと小僧に言い聞かせていた。このお坊さんは、ご馳走になってくるといつでも手水場(ちょうずば)へ行くことにきまっている。ある時、お坊さんが法事のため外出したので、しゃくにさわっていた小僧が、手水場の板をのこぎりで薄く挽(ひ)いておいた。よっぱらって帰ってきたお坊さんは案の定手水場へ走って行った。それとも知らないお坊さんは、たちまち手水場へ落ちてしまった。小僧がかけつけるとお坊さんは両方の手を出しているので、小僧は酒を一斗(と)買ってこなければならないと思い、そのままにして出かけてしまった。お坊さんは怒ったが、常日頃から指一本のときは一升だと言っていたのでどうしようもなかった。