大晦日(おおみそか)の火

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嫁と姑(しゅうとめ)が非常に仲が悪い家があった。姑はどうにかして嫁を家から出したいと思っていた。そこで大晦日の晩「うちでは家例(かれい)で、大晦日の火は消さない。お雑煮(ぞうに)の火は新しくつけねえんだから今晩は火種を絶やさねえでくろ。」と言って姑はさきに寝た。嫁は薪(まき)をいっぱいくべて、火種をたやさぬようにしてやすんだ。火種が残っていては嫁をいびり出す口実がなくなるので、姑は嫁が寝入った夜中に起きて水をかけて火を消してしまった。翌朝となり、火が消えたいろりを見た嫁は、自分がこの家を出てゆくほかないと観念して外に出た。すると、むこうから明りをつけて人が来る。嫁はわらをもつかむ思いで、「どうかこの火を分けて下さい。」と頼むと、その人は、「火を分けてやっから私の願いも聞いてくろ。」と言って箱を出した。「この箱を納屋の隅でもいいから預って置いてくろ。二、三日のうちに取りにくるから。」というので、嫁は引き受けて火種をもらって家に帰り、その火種でお雑煮を作った。しかし、二、三日という約束で預った箱だが、十日たっても受け取りに来ない。嫁はだんだん心配になり、顔色も悪くなってきた。それに気付いた旦那(だんな)様は「おまえ、このごろどうかしたのか。」と聞くと、「どうもしない。」と答えたが、どうしても不審に思い、「それにしても日増しに顔色が悪いげっと、何かあっぺ。」と再々聞きただした。嫁もかくし切れずに、「実は、二、三日と言うんで、こういう箱を預ったんだげっと、いまだに取りに来ねえんだ。死人でも入っていんだねえかと心配でしかたねえ。」と打ちあけた。それではということで、二人で怖る怖る箱をあけてみると、中は全部お金だった。嫁は一部始終を姑にも話した。それからは互いに心を入れ替え、仲良くくらしたそうだ。