化猫(ばけねこ)

528 ~ 529
むかし、あるところに大きな家があった。その家では不思議なことに、手拭(ぬぐ)いやたすきを新しくおろしておくとなくなってしまう。その家では古猫を一匹飼っていて、その猫は毎晩どこかへでかけて行く。その家から一山離れた所で、猫が何匹もあつまって、笛を吹いたり太鼓をたたいたりして踊をおどっていた。手拭いをかぶったり、たすきをかけたりしているので、どうやら犯人はこの猫たちらしい。その中でも一番の親玉猫が今晩はやけにくるのが遅い。猫たちは「なんで来るのがおそいんだんべ」と話をしていた。そこへ親玉猫がやっと姿をあらわした。「いや、おらげ(自分の家)ではあずきっかゆなもんで、早くくってくべと思ったって、熱いおまんまをくれるもんだから、それであわててくったらべろやげっぱた(やけど)しちゃって笛吹けねぞや。」といったので、踊るのを楽しみにしていた猫は、「べろやげっぱたさせられたんでは、明日旦那様の茶碗さ、はつわけ(めしを盛る)したところへな、墓場へ行くとトカゲが出たり入ったりして毒水になった液があっから、そごの奥様の足さつかまって、お茶碗に、ニャーニャーと鳴きながらピター、ピターと毒水を入れると旦那様がそれくってまいるから、そうすっといいわ。」と悪知恵をさずけた。ところが、ちょうどそこを通りかかった人がいて、さっそくその家へ行ってことの次第を話して教えた。翌日になると、なるほど、めしを盛った茶碗のそばへ古猫がやってきて、ニャーニャーと鳴きながらしっぽを茶碗につけている。通りがかりの人が教えてくれたとおりであったそうだ。