二 改正の経過

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本法施行以来数度の改正のうち、昭和三十七年法律第一一二号として公布された改正法は、その規模、内容ともに制定以来の大改正として注目される。
 この改正法は、昭和三十六年六月に成立した選挙制度審議会設置法にもとづく第一次審議会が、選挙の公明化をはかるためのさしあたっての措置として答申したものを大幅に修正成立したもので、おもな改正点はつぎのとおりである。
(1) 選挙界から悪質の腐敗行為を除くための改正で、懸案の連座制の強化がある程度実現をみた。すなわち、連座制を総括主宰者や出納責任者のほかに、選挙区の三分の一以上の地域にわたる選挙運動を主宰した者(地域主宰者)、法定費用の過半を支出した者、候補者と同居し候補者と意見を通じて選挙運動をした親族が、買収・供応などの選挙犯罪により処刑された場合(ただし親族については禁錮以上の形に処せられ、かつ執行猶予にならなかった場合に限る)にも適用することにした。しかしこの連座の対象は答申の線から大きく後退している。また答申では〈連座による当選人の失格は、刑事判決の確立より、直ちに効力を生ずる〉ことになっていたのを、改正法は、刑の確定後、検察官が当選無効の訴訟を起すことに改め、連座制強化の実効性を骨抜きにした。ただ連座制との関係で注目されるのは、悪質な選挙違反については必ず公民権を停止することにし、短期時効制度を廃止したことである。なお、政治資金の規正を若干強化したことも注目される。ただし、答申が〈国や地方公共団体から補助金、負担金、利子補給金、出資金を受ける会社、法人〉による選挙または政治活動に関する寄付を一般的に禁止したのに対し、改正法は〈当該選挙に関し〉寄付してはならないとし、政治活動に関する寄付を従来どおり認めているので、政治資金規正の効果は疑わしい。また後援団体の規制が新たに設けられたが、ここでも、後援団体の寄付禁止期間を限定することにより答申の線から後退している。

(2) 公務員の地位利用規制で、これも選挙界の粛正を目的としている。ただし改正法は、公務員等(公務員や公社などの役職員)が地位を利用して選挙運動の準備行為を禁止する点では答申を採用したが、特定の高級公務員が離職後最初の参議院全国区選出議員の選挙に立候補することを禁止した答申の構想は採用せず、公務員だった者が衆議院や参議院の選挙に当選した場合、在職中の地盤培養行為をしたことが明らかになって処罰されたら失格することとし、さらに特別の連座制を認めることにした。

(3) 政党本位の選挙運動のための改正で、政党、確認団体が、候補者の支持、推せん演説も出来るようにし、その演説回数やポスター枚数をふやし、政党本位の選挙への強い関心を示している。もっとも確認団体の数がしぼられたので、労働組合等の選挙活動は極めて困難になった。これに関連し、選挙運動の形式的な規制について、一定の制約のもとに事前運動としての演説会を認めるなど、かなり運動を自由にする方向を示した点が注目される。

 このほか、選挙の公営、管理の面にも多岐にわたる改正が実現した。ただ選挙区制の改定、衆議院議員の定数の不均衡是正をはじめ、政党法や政治資金の規正強化などの重要問題は、昭和三十七年十二月発足の第二次選挙制度審議会以降調査検討が続けられている。なお、この調査検討の間において、衆議院の選挙区制については小選挙区制を採用すべきであるとする主張が強い。また、衆議院の議員定数と選挙人口との不均衡の点については、昭和三十九年の第十一次改正により、さしあたり不均衡のとくに著しい五選挙区(東京、愛知、大阪)の二分割や一部の県(神奈川、兵庫、鹿児島)の選挙区の議員定数の増員の結果、一九人が増加された。