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八月廿日箱根宮ノ下奈良屋ニ於て御遣しの書状披見いたし候近頃不眠云々折角御自重祈入候我事も昔年仏国留学中左様の事有之非常困却候事を紀憶いたし候右ハ旅行殊ニ高山ニ旅行よろしくと存候海岸ハよろしからず兎も角も医師ニ御相談必用と存候来ル廿二日には井上公使帰任出発ニ付注意方依頼し可遣候要するに勉強も大事なれども精神は時々やすめて其代りニ筋骨を十分ニ苦しむる事目下の急務ならむと考候われ事はよくゝらひ能くねむる病は慥ニ全快ニ候又一家皆々無事なり勿労意◯来書の如く吾邦は満韓事件と行財両政整理とが目下問題の焼点なり要するに具眼の人ニ乏しく歎息の事而已なり猶又伊藤侯ニ代り政友会総裁を引受け候事ハ新聞其他にて御承知と不贅于此◯過日来新聞切抜少々郵送いたし置候こゝにも封入いたし置候実ニ馬鹿々々敷事而已記載有之以て吾邦新聞の幼稚を見るにたらん昔年右送り方御頼の事を思出し候ニ付送り候得共又々当分ハ無之と存候◯本年東京の暑気は非常にて九十五六度ニ及候われ事ハ宮ノ下ニ避暑候九月ニ入り候ハヽ帰京の企ニ候独逸暑気如何書不尽言ニ不尽意閣筆于此候也
八月二十日 父より
八郎殿え