西園寺公望書簡(清国漫遊の件など)

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十月二十三日付手紙十一月二十八日披見候其後不眠症も快気云々何喜如之乍此上御用心専要と存候御申越の書物ハ早速取調させ可差送候◯われ事本年ハ夏より少々病気有之転地旅行を思立南清ニ一遊いたし候然処帰途京都に負傷峻坂にて車顛覆閉口候最早大抵快よく相成候御心配ハ無用なり◯支那にてハ蘇州杭州一見猶又長江ニ遡る更ニ洞庭湖を横ぎり湘江ニ出長沙湘潭見物夫より流を下り岳州武昌漢口南京鎮江等到処旧蹟多く趣味を感じ候◯東京も議会の時ニ相成五六日前より非常多忙ニ有之候本日は開院ニ有之候我事ハ右負傷の為め大礼服着用ニ少々こまり候ニ付不参候其為め得寸暇候于此返書相認候◯高輪えハ支那より帰京後ハ未ダ行かず是又負傷の為也勿論皆様御機嫌よろしき趣なり御安心此方も皆盛也お新菊実斐此夏ハ伊香保ニ避暑せり大悦なりし也◯戦争ハ何分旅順不落当局は勿論国民心配にてバルチック艦隊追々近く相成よし上下漸く危嶮を感ずる時いたり候◯此地寒気例年ニ比して早く其地如何猶又伯林え転学云々井上公使と相談整ヒ同公使承知の上ハわれハ勿論異議無之候何れニあるも前途の為め能々慮り御勉強大事ニ有之と存候書不尽言草々
  十一月卅日   父より
 八郎殿
  徴兵猶予証ハ既ニ御出しとは存候得共為念附記ス