昭和二八年五月 風の音(五首/まぼろしの椅子・二首/朱扇)
昭和二八年六月 あけくれ(七首/まぼろしの椅子)
昭和二八年七月 寂しき言葉(七首/六首まぼろしの椅子)
金銭に淡白なる二人の生き方を子の無き故と人は噂すらしも
昭和二八年八月 夜の雨(六首/三首まぼろしの椅子)
寄稿者の思想は調べしやと念を押さる編輯の枠もいよいよ狭し
人の心を見抜くにうときわれの性公務員には向かぬと思ふ
拙き処世の如くに人は蔑まむ表裏なく生きむとわが希へるを
昭和二八年一〇月 職掌(一三首/一〇首まぼろしの椅子)
かげ口のみ言ふ雇ひ女も未亡人の自衛本能と思へば憎めず
教員たりし日々の恋しも声潜めて物言ふ人の多き事務所に
幾年の曲折を経つつ姑もまた寂しき人とのみ思ひなし来ぬ
昭和二八年一一月 雑記(八首/五首まぼろしの椅子)
苦しみて歌詠みゐるに友の来て充実せる生き方の如く羨めり
婚期外して来し事を低く言ひ出づるこの友も暗き青春を経つ
きりつめて手製の服のみ着るわれの器用さをさへ人は羨やむ
昭和二八年一二月 現実(八首/五首まぼろしの椅子)
MSA景気を待つ外なしと憚らず言ふ友も現実にあがく一人ぞ
究極は政治の問題ぞと結論し索莫と今日の会議も果てぬ
発言権も日々に奪はれゆくならむ声潜め何か言へる室を出づ