昭和三三年一月 秋郊(二〇首/一九首不文の掟)
発車まで間のある暗きバスにをり病み易くなりし身を寂しみて
昭和三三年二月 冬木(六首/不文の掟)
昭和三三年三月 冬の季語(六首/四首不文の掟)
コーヒーをいれつつきざすかなしみよ互に会話継ぐこともなく
雨降ればあぶるる彼の来る待ちて力仕事をわれら溜めおく
昭和三三年四月 春寒(六首/五首不文の掟)
わが知らぬ表情となりてゐたらずや駅の階駈けのぼり去る見つ
昭和三三年五月 春信(七首/六首不文の掟)
何待つとあてもなけれど花蘇芳低き枝より咲き満ちてゆく
昭和三三年六月 灯かげ(六首/不文の掟)
昭和三三年七月 夜景(六首/五首不文の掟)
争ふとも相擁くとも見えし影夜汽車にゆられゐて思ひ出づ
昭和三三年九月 夏日(六首/四首不文の掟)
雨乞ひの太鼓夜すがら聞えくる村の出来事にうとく住む身に
いつの間にか植字工の変りゐる工場老いし使丁が茶をいれくるる
昭和三三年一〇月 葉月(六首/六首不文の掟)
昭和三三年一一月 秋意(六首/四首不文の掟)
クローバーの花一めんに灯をともし影見失ふ雨あとの野に
一針抜きに帯は縫ひつつ夜更かして何が契機となるやも知れず
昭和三三年一二月 季秋(七首/不文の掟)