昭和三四年一月 初冬のころ(六首/四首不文の掟)
人形の部品を作る友の家胡粉塗られて小さき足ら
裁ち屑を片寄せて掃く夜の畳こころ擡ぐることも少なく
昭和三四年三月 季冬のころ(七首/不文の掟)
昭和三四年四月 早春(五首/不文の掟)
昭和三四年五月 夕かげ(七首/不文の掟)
昭和三四年七月 すぎゆく日々(六首/五首不文の掟)
仰ぎ見る思ひも日々に移ろはむ遺作の素描壁にかかげて
昭和三四年八月 雨のあと(七首/不文の掟)
昭和三四年一〇月 物語り(六首/不文の掟)
昭和三四年一一月 秋近く(五首/四首不文の掟)
職替へて東京に住むといふ夫の噂針磨きたる母には告げず
昭和三四年一二月 秋深む日々(六首/四首不文の掟)
酔ひし風して別れしが夜の道は地盤ゆるめる感じにくぼむ
口角のわななけるさま身尽くして徐に答へ得し身も寂し