昭和四八年一月(七首/五首雲の地図)
雪の嵩も昨日のままか花びらの欠けたるネオンこよひもともす
買ひやらむ妹はゐずこの冬の色あたたかき布地を見てゆく
昭和四八年六月(七首/二首雲の地図)
消し忘れし灯の家にある如き一日こゑ励ましつつわれは仕事す
輪郭のたしかなる影ひきゐると気づきぬ信号に立ちどまるとき
遠く行く旅もかなはぬ予後の身を人はいざなふ札所めぐりに
伎楽の面の内側にあく瞳孔の深く小さし二つならびて
ときのまに春雷は過ぎ明るむを呼ばひて出でむうからもをらず
昭和四八年八月(七首/五首雲の地図)
リストよりラフマニノフと思ひゐて急に効きくる眠り薬は
思はざる花びらの嵩芍薬のうすくれなゐの一つ崩れて
昭和四八年一二月(七首/六首雲の地図)
この夜はいづちの山か届きたるはがきににじむスタンプの青