昭和五一年一月 雪の稜線(一五首/一四首野分の章)
縷々として歎くを聞けば心疚しわれには告げむことの少なく
昭和五一年二月 (無題)(七首/野分の章)
昭和五一年四月 (無題)(七首/四首野分の章)
いくたびも浅瀬を渡る夢なりき水清かりき月の光に
われのもつ弱味と言はむさだかなる理由なくては何もなし得ぬ
見しことのあらぬオーロラ見たる日をたのしげに言ふ傍にゐる
昭和五一年六月 (無題)(七首/五首野分の章)
見し夢の名残のごとく十日経ていまだはなやぐ蘭二茎は
さわだてる身を薬もて鎮めつつ決断といふも理屈にすぎず
昭和五一年九月 (無題)(七首/三首野分の章)
夏薔薇の小さくなりて咲く見れば今に残れる思ひの如き
見ゆる間に立ちて見送るわが習ひ別れがたくて立つさまに似む
念凝りて石となりしといふきけばまだまだ浅きかなしみならむ
暑き夜のまどろみに見る夢にさへふるさとの山は雪をいただく
昭和五一年一〇月 (無題)(七首/野分の章)