昭和四二年一月 帰らぬ魚(三三首/三一首花溢れゐき)
もまれつつ花束の流れゆくを見つ幼きこゑの川上にして
許さずと決めて暫く眠りたり苦しめることも言はずに過ぎむ
昭和四四年一月 雨の奥より(一〇首/八首花溢れゐき)
少しづつ引きよせられてゐるわれか揺られ続くる夜々の眠りに
練習船の白いマストも見失ふ眼鏡はづししくるめきのなか
昭和四四年八月 雲多き日々(三〇首/二七首花溢れゐき)
腕などを失ひて還る兵はゐずやジェット機も銀河も曇りに見えず
夜の銀河は水ふくれゐき吊り革に触れ来たる手をいつまで洗ふ
ヴェロニカの手巾の意味も知らず来てたたむガーゼの手にやはらかし
昭和四七年一月 風のやうに(二五首/雲の地図)
昭和四七年四月 木などになれず(二五首/二二首雲の地図)
いきなり目隠しされてサラセンの駱駝か何かに奪ひ去られよ
フラメンコの衣裳の裾に鈴をつけどこまで運ばれゆきたるわれか
何気なく顔の前にて擦るマッチ鋭き燃えをなすことのあり
昭和四八年一月 幾月かたつ(九首/八首雲の地図)
階段を昇り来りてみづからの足音のふとさもしき日なり
昭和四九年五月 くつがへらねば(一二首/雲の地図)
昭和四九年八月 花びらは湧け(一〇首/雲の地図)
昭和四九年九月 身を責めて(五〇首/雲の地図)