『オレンヂ』 菅野民子名

昭和二一年一一月 (無題)三首
 空の果て空につゞきてよるべなき蜻蛉ぞひとつ流れたゞよふ
 眼交ひの事象を超えて星ひとつ呼ぶさへむなし遠きこゝろは
 灯ともれば花にも淡き靜脈の透けてはかなく見えそめにつゝ
 
昭和二二年一月 (無題)三首
 残されし獨りの母のみ部屋ゆゑわが活くる花よ明るく咲けよ
 雨の日の窓に羽叩きしげくゐる黄の蝶よすでに吾は疲れぬ
 うす紅き花咲ける藻の流れゐていつ根ざすとふそぞろ心よ