『蔗境』

壹  ガリ版十首(板谷四首・髙文三首・確信三首)
昭和二二年九月 (回顧一年七首・歌と随筆三首)
 
貮  ガリ版
昭和二二年一二月 夕歌五首(三首/歌と随筆)
 ましろなる小菊活けをれば涙の出でぬたつきに疲れ果てし心も
 黄昏の氣配のゆらぐ野に立てばこころ穂薄のごと折れてゆくなり
 
参  ガリ版
昭和二四年九月 生活抄一二首(二首/やまと・四首/オレンジ・一首歌と随筆)
 倚りてのみありへし女の償ひにて朝ごゝろさへ易く乱さるる
 機械的な手仕事せめてする倦怠は今朝の屈辱にかゝはる如し
 従の立場に何時しか吾を慣れしめて座せば靜けき妻の位置なる
 女ごゝろの卑しさと思ふ自意識も湧きしまゝつい決断とならず
 妻のわれに干與しがたき形而上の生活が君にあるを怖るゝ