『彩』

昭和四〇年六月二六日「かたちなき岩」
 
        水明かり(一二首/無数の耳)
 
        とばり(九首/無数の耳)
 
        雪の章(九首/八首無数の耳)
 総毛立ち吼ゆる木々かと見てゐしが窓を閉づれば風の音する
 
        潮鳴り(一九首/一八首無数の耳・一首形成三八・三)
 
        かたちなき岩(九首/無数の耳)
 
        濡れし落ち葉(九首/無数の耳)
 
        形代(一四首/一一首無数の耳)
 街灯のあかり見え来てまつはれる落ち葉の音もわれを遠退く
 ばら色の子豚らあまた生まれしを告げ来る遠き小島に住みて
 黒人の一団を迎へ湧く拍手遠き日に見し夢のごとしも
 
        冬の枝(九首/八首無数の耳)
 再びの忌の夜に思ふ病み痩せて枇杷をむきゐし白き指先