『律』

昭和三七年六月 訴人の貌一二首(一〇首/無数の耳)
 鍾愛の記憶いぶせし何時となく身に浸剤の香がまつはれば
 貝積みて墓標となせし古事なきや踵埋めつつあかるき渚
 
昭和三八年九月 椿のうた一五首(一二首/現代短歌シンポジュウムテキスト)
 墓の辺に撒き散らしたる贅のごとわが足もとの落花にぎはふ
 埃吹く季節は長し葉がくれに無数の子らをはぐくむわれに
 効用を持ちて運ばれゆかむとしわが実ら黒く籠に輝けり