『埼玉歌人』

昭和四四年二月一〇日 最後の朝餉三首(二首/花溢れゐき)
 石膏のダビデの像はかき消えて見知らぬ顔がわれを待ちゐつ
 
昭和五〇年七月三〇日 帰る人三首(二首/野分の章)
 灯を消して明るむ窓に生きもののけはひのごとき棕櫚に降る雨
 
昭和五七年七月一〇日 紙の思ひ(三首/印度の果実)
 
昭和六〇年一一月二四日 まぼろしの椅子三首(一首/まぼろしの椅子・一首/不文の掟・一首/花溢れゐき)
 
平成元年七月一日 版画の鴉(五首/風の曼陀羅)
 
平成三年六月一五日 風景三首
 馬はもう一頭もゐぬ厩舎なれ草萌えの野のかなたに置かる
 トラックの来む憂ひなどまだ無きか石一枚の橋を渡して
 英雄伝説のなかの白鳥音に鳴きて西のかなたへ飛び立ちゆきぬ
 
平成四年一〇月二〇日 渚より三首
 きりもなく数をふやして幼子の砂のプリンはかたどられゆく
 幸せな日もありにけりア・プリオリ ア・ポステオリなど言ひあひて
 明日の日も知れざるものを夜を更かし波消しブロック積む人のをり