『郵政』

昭和五六年二月 花の名五首/風水
 
昭和五七年四月 鳥かご五首
 速達の届きてかたくりの花咲けり今年こそ見に来よといざなふ
 雑念を払はむすべもなくゐしが忘れてゐたる目ざましを巻く
 午後からは歩行者天国四つ辻に一本足のテーブルを置く
 幼な子をあまた連れたる若き母大声にものを言ひつつ行けり
 鳥かごのかたちやさしく包まれて運ばれゆけり少年の手に
 
昭和五七年九月 夜の笛の音五首
 花嫁もシアトルへ無事に着きしとぞエアメールに読む英文優し
 ひらきたるてのひら寒き夕まぐれ見知らぬ犬のながくつきくる
 日の少し短くなりぬ咲き残るひるがほの花はあはきくれなゐ
 昼間見しキャッツアイとふ宝石のいまだ目にあり眠らむとして
 村里に秋の祭りの近からむ夜の笛の音のひとすぢとほる
 
昭和五八年三月 ブロンズの像五首(一首/印度の果実)
 コーヒーにミルクの渦を回しをりガラスのむかうに目を感じつつ
 ブロンズの少女の像も濡れてゐむ音もなく降る三月の雨
 新しき巣箱かけしはたれならむしなやかに立つけやきの幹は
 風吹けばしろがねいろに光りつつこぶしの花芽ふくらみそめぬ
 
昭和五八年一一月 秋色五首(二首/印度の果実)
 マロニエの葉もいろづくと告げて来ぬ深みゆくパリの秋を伝へて
 同じ向きに尾花はなびき係累のみなほろびたるふるさとの村
 菊人形はお染ならずや横抱きに髪のほつれて運び去られぬ
 
昭和五九年十月 旅の秋五首
 トンネルを出でし刹那の海の青絵本の海のやうにひろがる
 軒低き家並みつづける街道を折れてしばらく秋草の道
 思はざる大きさにして鴉一羽黒衣の使者のごとくおりくる
 すきとほる水の流れに添ひゆけば思はぬかたに山羊の声する
 秋の日は傾きそめぬさゐさゐと風にしなひてそよぐたかむら