『逓信協会雑誌』

昭和六〇年四月 下界の桜五首
 湧きたてる下界の桜ゆるやかにリフトは宙を昇りてゆけり
 しろじろと岸の桜の映りゐる水を乱して鳥はあらそふ
 造成地の広さに隠れ場もなくて男の子らの散らばり遊ぶ
 発車待つバスの窓より夕雲の影賑はへる水面の見ゆ
 コンテナを積めるトラック過ぎてより忽ち暗しわれのめぐりは
 
平成五年九月 人工の岩五首
 鉢の木にしづかに水をやりをれば悔いの一つの夕顔の花
 風の日の試合となりてスタートに髪なほし合ふ女子ゴルファーは
 バーディーは吸はるる如く決まれども元気負けといふこともありとぞ
 戰ひをやめて久しきけものらは人工の岩に寄りてしづけし
 雲の影に入りてそのまま暮れむとし青ざめてゆく橋も河原も
 
              「郵政」「逓信協会雑誌」郵政博物館資料センター所蔵