昭和五八年四月 砂文字二〇首(一三首/印度の果実)
ワゴンの上に溢れて花の売られゐつ人を送り来て駅を出づれば
知り得たることもすべなく歩めるにジグザグなして波の引きゆく
戦ひの日のことのみを語りつぎ虹立つ空を人は見ざりき
砂文字を消して引く波寄する波不意に見知らぬ顔が振り向く
日のあたる坂道の目に見えながらいづち行きけむ少女のわれは
降り立ちてよしなき反故を燃しゐるに今朝の雀はみなよく啼けり
窓打つを風の気配と知るまでのつかのまありてまたさびしけれ
『俳句とエッセイ』