『文藝春秋』

昭和五六年五月特別号 風にまぎれて八首(風水)
 
昭和五八年九月 ポートアイランド小景八首
 この部屋のマスターキイは誰が持つホテル十階夜の更けわたる
 二人ゐて一人出でゆく気配せり隣の部屋も同じ作りか
 告げ得ざることとしてわが思ふのみ凶のほくろを人の手に見き
 眠られぬままに思へばみどり児の金無垢といふ重さも知らぬ
 何載せていづこより来し帆船かマストのみあまた立てて横たふ
 南風に吹きあふられて船籍の旗はいづこの国とも知れず
 大粒の涙のごとき電線のしづくにいきなり髪を打たれつ
 さまざまにからめ取らるるわれならむ網の目の如き雲が広がる
 
平成四年五月 楕円の花火八首(光たばねて)