『小説新潮』

昭和六二年四月 春の落ち葉五首
 目に見える距離見えぬ距離少年は母と離れて野道を行けり
 キューポラは夜空に火を噴き傍らに夫と呼びたる人のをりき
 貨車はもう通らずなりし枕木に小石を積みて子らは遊べり
 春の落ち葉を掃きよせをれば滞る思ひの如し濡れし落ち葉は
 紫木蓮ほころびそめてわが指の十本にかこふほどの大きさ