『朝日新聞』

昭和三八年一月一日 年頭吟詠二首(一首/無数の耳)
 鳥籠を日あたる枝につるしおきほどく賀状のたばがおもたし
 
昭和三九年一月一日 年頭吟詠二首(不文の掟)
 
昭和四〇年一月一日 年頭吟詠二首(一首/無数の耳)
 帰る日のことには触れず海越えて遠くカジノの夜を告げ来る
 
昭和四七年一月九日 今朝は新し三首
 仰ぎ見て今朝は新しローランサンの少女が持てる蝋いろの肌
 春を呼ぶ部屋に活けおき夜となれば移り香のやうな薔薇の匂ひよ
 振袖の乙女の二人降りゆきぬまた目を閉ぢ寒き夜のバス
 
昭和五〇年一月六日 冬の渚三首(野分の章)
 
昭和五七年一月 初市三首(一首/印度の果実)
 枯れ葉に光あまねし越冬の鷺のつがひのたをやかに舞ふ
 初市のにぎはひのなか白犬の顔の小さくいだかれゆけり
 
昭和五八年一月 初神楽三首
 初春の日ざしと思ふ竹馬の子の神妙に歩むを見れば
 舞ひ初めの神楽に鬼の面つけて追はるるさまをあはれに演ず
 旅の絵師の作と伝ふる鶴の絵に赤く大きく日輪うかぶ
 
昭和五九年一月 魔除けの絵三首
 つつがなきひととせなれよ賜ひたる魔除けの鈴は鼠のかたち
 いづち飛ぶヘリコプターか木蓮はしろがね色の花芽かがやく
 獅子舞の笛をラジオに聞きしより故郷の雪の山々浮かぶ
 
昭和六二年七月 夜の向日葵五首(風の曼陀羅)