昭和五一年八月二二日 随筆「埼玉の張り子」
秋草の花のかそかに咲く道を分けて来て千の張り子らに会ふ
富みを得む人の願ひをさながらに千両箱を背負ふ張り子よ
声立てて啼くにあらずや虎も獅子も張り子ら一つ一つ表情を持つ
天狗にも狐にもなり得ぬ現し身に面をかむりて歩みてみたき
ふさはしき大きさあってそれぞれに買はれゆきけむ目無しだるまは
昭和五八年一月四日 不意に新し五首(一首/印度の果実)
壁面の木目の渦をたどりゐて思へることの不意に新し
常磐木の葉を落とさずに立つことも力ならむと思ひて仰ぐ
尖塔をそれたる赤き風船のそのまま高く昇りてゆけり
土星の輪の思ひみがたき大きさを回して何の初夢か見む
昭和五九年一月三日 初春の毬五首(三首/印度の果実・一首/形成五七.七・一首/抒情文芸五八春)