[昭和六〇年代]

昭和六〇年一月一日 秩父新春五首
 片耳にとらへし巡礼の鈴の音はたちまち両耳に入りて近づく
 水鳥のをりをり光る沼の上春めくと思ふ午後の日ざしは
 をしどりのつがひがゆけり水面に緑の羽根を輝かせつつ
 はすかひに及ぶ日ざしに対岸の赤松の幹はあたたかく見ゆ
 年々に願ひのあはくなりゆくと巡礼の鈴を追ひつつ思ふ
 
昭和六一年一月一日 水のほとり五首
 勢ひはかく美しく水ぐるま朝の光をはじきて回る
 枯れ草に伏せて待ちゐし茶の犬に調教師のこゑかなたよりする
 触るるとも見えて飛び立つ鳥のゐてしばし乱るる水のおもては
 七草のなづな萌えをりゆるやかな流れとなれる水のほとりに
 この年もいそしみゆかむ川底に白き陶片ありてまぎれず
 
昭和六二年一月 未知の月日五首(風の曼陀羅)
 
昭和六三年一月 女滝男滝五首(風の曼陀羅)
 
昭和六四年一月 鈴の音五首(風の曼陀羅)